図書館 2/2
「お体の具合はいかがですか、リーヤさん。」
「大丈夫ですよ。いつもすみませんねぇ、本を持って来てくださって。」
「いえ、昔は私が貴方にお世話になりましたので、これ位は。」
そう言って、彼女の差し出した本を受け取り、別の本を差し出す。
「この本でよろしいでしょうか。題名はこれでいいのですよね」
「ありがとうございます。私も動けなくなってしまっては寿命が近いのでしょうかねぇ。」
「縁起でもないことを言わないでください。貴方には長生きしていただかなければ困ります。」
そう言ってもらえるだけでも嬉しいですよ。そう言って彼女は笑った。
「また三日後に、よろしくお願いします。」
「はい。」
私は、週に二回程、このリーヤさんという方の元へ本を届ける事が日課になってます。特に理由はないのですが、私が昔お世話になってた方ですし、図書館の常連さんでもあったので、それもあって私が足を運んで届けています。
「明日はこの本を書庫にもどさなくては行けませんね。」
片手に回収した本を抱え、帰路へついた。
そう言えば今日はウォイスと約束がありましたね。気がついたのは、自宅に着いてからでした。仕方ないので、本をテーブルに置き、夕食の下ごしらえをして再び家をでました。
もう町にはランプが灯り始めており、空は真っ暗だった。私はこの幻想的な風景が好きです。理由は分かりません。
指定した場所に行くと、ウォイスさんは腕を組んで待っていました。待ちくたびれた様子で周りを見回し、私の姿を見つけると歩み寄ってきました。
「お前の見まいは一体何時間かかるんだ。少なくとも三時間は待ったぞ。」
「そんなに私に言いたい用事だったのですか。でしたらお昼に伝書兎を寄越さないで自分でいらしてくださればよろしかったのに。」
「あぁ、ラヌメットの事か、昼は少し野暮用があってな、机から離れられなかった。」
「そうですか。では、その大切な用事とは何なのでしょうか。」
「おまえは総合分野の教師ながら、魔法薬学が突飛して得意だそうだな。」
「だから何ですか。」
「聞いても良いか?不死の薬を解毒する薬はあるのか?」
「はい?」
突如聞かれた。危険な要素たっぷりの言葉に驚いて、不本意ながら聞き返してしまいました。
「何故、そのようなものが必要なのでしょうか。それよりも、永遠の魔導士と呼ばれしあなた様が知らないものもあるのですね。」
「お前のその皮肉たっぷりは口調はどうにかならないのか。」
「先に質問に答えるべきは貴方です。何故でしょうか。」
「特に無い。ふと思ってみただけだ。」
「そうですか、頼む人は皆、理由があるからそれを聞こうとするのです。貴方のように、理由が無い人程おかしな人は居ません。しかしそれもまた理由の一つなのです。それで、私は元からこう言う口ですので別に意識してる訳ではないのです。」
「そうか、ではあると言えばあるのか。」
「えぇありますよ。ですが、その書物の在処は分かりません。図書館内にはあるかと思われますが、禁書のフロアの最深部に入れられてるとも言われてますし、封印されてるとも言われてます。」
この図書館内にはいくつかのフロアがあります。
まずは一階が魔法(初等部向け)や娯楽などの本。二階には中高等部向けの本と、ずっと奥に禁書(持ち出し禁止の本)があります。もちろん、この階のは読む事に差し支えが無いものです。
三階からは限られた人物。王宮の者、宮廷魔導士などのみが出入りできるフロアです。
内容は、こちらも禁書(王宮の者のみが覚える事が可能な特別な魔術など)が入ってます。確か、黒魔法の記述の本も五棚程度ありましたかね・・・。
最上階となっている四階には、私が言った通りアファレイドで法的に禁止されている魔法魔術書の保管庫となっています。
そして、その最深部というのが私のカウンターの所から行けるいわゆる秘密の花園なのです。私はそこの鍵を預かってはいますが、まだ行った事はありません。非常時以外そんな事許されませんしね。
「まぁ、名前はちらっと本で読んだ事はありますね。ただ、作成の仕方は不明でしたけど。」
「そうか。」
「もしかして、何かする気でしたか?あれはこの国で禁止されている薬生成法でもあります。不老不死の薬が高等部で見る事ができるのは異様ですがね。」
「別に何かする気はない。ただ、この国にもあるのかと思ってな。」
「まぁ、その本自体は昔あったと言われるレヴィアーデンのふるい本だそうですが。」
そう言ったい彼に目を向けると、彼は目を見開いた。
「そうか、今日は夜分遅くに呼び出してすまなかったな。」
「いえ、まぁ本当はこの時間なら夕食を食べていた頃なのでしたがね。あと、ラヌメットさんに言っておいてください。」
「なにをだ?」
「期限切れの王子へ貸し出した本を、早く返してください。と」
そう言って私は、彼の答えを聞かずにその場を立ち去りました。せっかくですから明日は久しぶりに教壇に立ってみましょうかね。
翌日、私は久しぶりに一日中学校に居ました。いつも静かな図書館と違って賑やかでしたが、授業も真剣に聴いてくれたので良かったです。
あれから数年が経ちました。
ラヌメットさんは、見事卒業試験に合格し、証書を私に見せにきました。やはり体は他の皆より小さいのですが私にはそれが、昔の私に見えました。
その数日前に、王子のラネリウス様が王へと即位したのでした。これを機に、ウォイスはこの教師を辞めて、宮廷魔導士一本で行くつもりらしい。それと、ラヌメットを宮廷魔導士へと育てるために弟子にするのだとか。
せっかくなので、私もこれを機に教壇に立とうかと思い、年度最初の職員会議で図書の管理をやめる事を職員全員に言いました。
その次の日の夕方でしたかね。
リーヤさんが亡くなりましたのは・・・・・
突然の事で、私も驚いてしまいました。私が駆けつけた時はもうすっかり冷たくなっていましてね。声を掛けても、体を揺すっても彼女は目を覚ます事は無かったのです。
仕方が無い事ではありましたが、悲しかったのです。いきものを生き返らせる事はこの世の中でもタブーでありました。
その数年後には、王様と王妃様の間にお姫様が誕生しました。
当時は皆がそれを祝福しました。我が校もその間はお姫様の話題で持ち切りでしたからね。
そして、その数年後、お姫様が亡くなった時にも皆が悲しみました。数年後、王妃様の死と引き換えに、跡継ぎとなられる王子様がお生まれになられました。そして、その時期になって、ラヌメット様が私の元を尋ねて来ました。
「もう、図書館にいなかった時はびっくりしましたよ」
そう言って手に持っていた紙を私に見せて来ました。
「此れは・・・・」
「見ての通り、宮廷魔導士の証明書です!!これで、四階に上がれるようになります!!」
「そうではありません。貴方の胸ポケットに入ってらっしゃるその写真です。ついに貴方にも愛人ができましたか?」
「ちがうよ。やっぱり先生は証書なんか目にも入らないんですね。卒業した時もそうでしたもの。」
そう言って笑う。私が顔をしかめると、彼はハッとして胸ポケットからその写真を取り出した。
「これは・・・・?」
その写真には、小さな男の子が映り込んでいた。
「これが王子様です」
「この方が・・・ですか?」
「はい、目に入れても痛くないとはこまさにこの事ですよウォイス様とかもうメロメロで、この前なんか『どうだ王子は』とか、聞いてきたんですよ」
ご丁寧にも、ウォイスの声を真似していう。
「そうですか、良かったですね。」
「・・・・・・・!!」
すると、ウォイスから声がかかり、彼は一礼して駈けてゆく。
こんなに嬉しい物でしたかね、教え子の成長というのは、そんな事をふと思いつつ、下がった眼鏡を押し上げて次のページをめくった。
図書館 1/2
図書館。別名「知識の宝庫」そのなの通り、昔の人々が、現世に伝えるために作った資料を一つの場所にまとめたもの。
私が瑠璃の森であのような事になる前は、アファレイドの中でも一番大きな魔術学校の総合魔術の教師をしていたのです。
しかし、アファレイド大図書館にほぼいるために、授業を受けられた生徒は運が良いと言われるまででした。
まずは簡単に我が校の説明をさせていただきましょう。
この学校には大きく分けて三つの区分けがされています。
まず始めに入るのが「初等部」と言われる区画です。
そこではまず、「防衛術」「回復術」「攻撃術」「魔法薬学」などのジャンルの基本呪文と、できた理由などを、六年程かけて学ぶのです。
毎年、年度末には進級テストと言う物があり、その成績によっては飛び級する事も可能である。また、参加は生徒の自由である、つまり、もう一年その学年の授業をうける事も可能であるということ。進級テストの成績が平均点よりも悪ければ落第である。 つまり、退学処分がくだされると言う事です。
次に「中等部」です。ここに入ると、まず二年間は初等部で覚えた呪文などのさらに上をいくレベルの魔法を覚える事からはじまります。
さらに、三年目では、攻撃魔法、防衛術の中に新たにジャンルがふえます。
それは、「間接魔法」です。防衛術の中に、「補助魔法」という新しい魔術が入って来ます。
なお、間接魔法は、防衛術の中に、補助魔法は回復術にもジャンルが入るので要注意です。
そして、回復術の中にも「便利魔法」と言うジャンルがふえます。さらに、その年には卒業試験があり、合格した者のみ卒業、又は高等部への進学が許諾されます。
また、中等部でも初等部と同じで年度末に試験があります。
ここで軽く説明を入れますね。
攻撃魔法:主に相手にダメージを与える魔術。初等部の頃に「攻撃術』のジャンルで基本呪文を習う。火の玉を打ち出したり、強風を作り上げたりするなど、破壊行動をメインとした魔術である。
防衛魔法:主に自身や味方を守るなど、我が身を守護をする魔法です。初等部の頃に「防衛術』のジャンルで基本術を習う。火を消したり身を隠すなど、身を守るために使われます。
回復魔法:傷ついた物を癒すなど、攻撃魔法とは対照的な魔法である。初等部の頃に、「回復術』のジャンルで基本呪文を習う。
自然治癒力を高めたりできます。治癒する内容は、怪我や毒、精神的な物から死者の蘇生など様々です。なお、死者の蘇生は高等部でも習えるかは分からない。また、魔法によっては、攻撃魔法ではあまり効果がないとされている。邪悪な者(悪魔や魔物)などを攻撃する事も可能である。
魔法薬学:主に、薬を生成する。これは、魔力がなくとも作成する事が可能である。初等部の頃に「魔法薬学』のジャンルで生成する方法の基本を習う。これは、中等部でも習う。解毒薬などの薬から、不老不死の薬まで、様々な物を造り出す事が可能である。 作り方は不明であるが、不老不死の薬の生成法を生徒に教える事は、法律で禁じられている。
間接魔法:対象の物体を妨害するのがメインとなります。また、間接魔法は物体の能力を下げる。魔法を封じる。行動を制限するなど、バリエーションに富んでおります。また、相手を死に至らしめる魔法もありますが、これは普通は習う事はないのでご安心ください。
また、注意点として、攻撃魔法とは違うので気をつけていただきたいのです。理由としては、間接魔法は、相手に直接攻撃をしてダメージを与える訳ではないので・・・。まぁ、稀に直接的にダメージを与える物も出てはきますがね。
ジャンルとしては『攻撃術』と「防衛術」の二つをかねそろえた稀な魔術ですが・・・。
テストでもここを間違える方がいますのでどうぞメモしておいてください。
補助魔法:これは、間接魔法とは対照的に対象の物体を支援して、こちらを有利な状況にする魔法です。味方の魔力を一時的に強化したり壁を作り上げたりします。また、敵にかけられた間接魔法の効果を打消すといった回復魔法のような物も含まれるため、「防衛術』と『回復術」の二つをかねそろえている。
これもテストで間違える生徒が例年居るので、要注意である。
便利魔法:これは、生活の上で大切の食事を作り出す事や、衣服などを生成するなどです。便利魔法は書物などによっては「その他魔術』に分類される事も多い。魔法例として、テレポートなどもその類に含まれる。
最後に高等部です。だいたいの生徒は中等部三年で卒業試験で合格した後に卒業します。その中で、好成績でかつ高等部への進学を自ら望む者のみが進学する事が可能である。
一年の間は間接魔法、補助魔法、攻撃魔法、防衛魔法を重点的に学んでゆく。
二年目からは自分の学びたい分野の所へ行く。
防衛術や攻撃術など、戦いに使用できる魔法を基盤とした「攻防魔術」分野
回復術や魔法薬学、便利魔法など、私生活で使える魔法を基盤とした「生活魔術」分野
間接魔法や補助魔法など、補助をする魔法を基盤とした「援助魔術』分野
それらを総合的に学習する「総合魔術』分野などがある。
また、高等部の年度末のテストでは、平均点に届かなかった者は皆強制退学させられる。飛び級はない。
三年目の卒業試験では、それぞれが学んで来た得意分野の試験が行われる。
合格できた者のみ高等部を卒業可能である。不合格しゃは卒業できるまではずっと留年である。
また、どの学部でも才能がないと思った物は自主退学する事が可能であります。高・中等部の三年生は除く。
さて、そろそろ話に戻りましょうか。
そんな訳でありまして、この魔法学に携わる者達にとってこの国の図書館は、宝なのです。
ここでは初等部から高等部。魔法をお教えしている先生や卒業生も使用しております。 何故ならそれは、学校では教えてもらえない魔術をこの本達は教えてくれるのであります。
もちろん、 魔法学の本だけではなく、民話や童話などの娯楽本もありますので一般の市民が借りにくる事もあります。
しかし、基本は学校の生徒達が一般的でございます。
私はそれを毎日一冊ずつ、厚さ五センチはあろうかと言う本の膨大な量の知識を頭の中に入れているのです。たまにですが教室へ出向きますね。
最近、高等部に噂の生徒が居るそうなのです。
なんでも、あのウォイス様が当校に引き入れたようでとても才能があると伺っておりました。何でも入るなり、高等部まで一気に飛び級した生徒なのだとか。
一度だけ指導した事があったのですが、その方は、他の生徒に比べて幼かったので、私でもすぐ判別がつきました。初等部に入学もせずに飛び級は異例のこと。しかし、彼の魔力はすばらしいもので、教えた呪文をすぐさま吸収してゆく。こんなに嬉しい事は他にはなかったのです。
なかなかこんなに優秀な生徒は居ないのですからね。
年度末の試験ではダントツの一位を取ったという。驚きです!
次の年にその子はウォイス様が教えている総合魔術の分野へ行かれたのですが、この図書館にちょくちょく顔を見せてくれます。
「ノヴァ先生ー。」
「なんなのです。ラヌメットさん、いい加減覚えなさい!図書館ないは大声で私語禁止!!走らない!!本を大切に扱いなさい!!何度言ったら分かるのですか!!」
遠くから私を見つけた例の彼はダッシュで駆け寄って来ました。
いつもの光景ですが、私が注意すると彼はしょんぼりします。これだけ優秀な人材でありながら、基本の基本がなっていないのですから困った者です。
「はい。というか、先生も大声出してるし、貸し出しカウンターの上に読み終えた本山積みにして、お昼食べながら読書してる人にいわれてもあまり説得力が・・。」
「これが日課なのです。閉館時間にはきっちりと出て行きますし、貸し出しの役委員も引き受けてますし。それに、目上の人には敬語を使いなさい敬語を。」
「もう、良いじゃないかぁーウォイスも許してくれてるしーお友達もそうだしー」
多分それは、もうみんな呆れてるからだと思うのですが・・・。
私は読んでた魔法学の本にしおりを挟み、ぱたんと閉じて彼の方を向いた。
彼はビクッとして顔を下に背けた。
「なんなのですか、用とは・・・?これでも忙しいのですよ、私」
「本読んでるだけじゃん」
それが私の日課だと言ってるじゃないですか。
「それで居て給料もらってるんだから凄いよな。」
「で、ようは?いい加減テレポートでもしたい気分ですよ」
私はずり下がっていた眼鏡をかけ直して周りから浮いて見える彼を見つめた。明らかに幼く浮いているのだが・・・・。
「んっとな、ウォイスから・・・「先生付けなさい。」
「はいはい。ウォイス先生からの伝言で、今日閉館した後に合えないか?だってよ」
「閉館後ですか・・・。今日は自宅に戻る途中で近所のリーヤさんのお見舞いに行った後に愛人に会いに行こうと思っていたのですが。」
「さりげなく自慢しないでよ。何かムカつく。というか、あんたにもそう言う人居たんだ。」
彼は、若葉色の髪をかきあげてムスッとした。
「居たんだとは失礼な。私が本だけがお友達とでも言いたいのですか。
別にいいでしょう。リーヤさんのお見舞いのあとでいいでしょうか。私の日課ですので、そのあとでしたらいつでもよろしいですよ。」
「あんたは飽く迄(あくまで)も日課優先なんだな。」
彼は、長い耳の先の毛をいじりながら話す。
「先生に向かってその口調は辞めなさい。とりあえず、伝言頼みますよ。」
「先生。僕は貴方の伝書兎ではないのですよ。先生が自らいってくださいよ。」
「伝書鳩と兎をかけたのですね。面白くはないですが、そうでもない程度に面白いですよ。それに私には、今日のミッションが終わってないのです。この本を閉館時間までに読み終えるのが今日のミッションです。」
そう言って私は先ほど読んでいたいつもの倍の厚さはある本を取り出す。
表紙には「転身の術と合成魔法』と書いてある。
「どっちなんだよ。ミッションって・・・。それも日課なんでしょ。はいはい。」
一人で納得しないでください。
「あ、あと、この本借りてくから判子お願い。」
そう言って貸し出しする図書三冊とカードを私の前に提示した。
「・・・・。」
印鑑を持って紙に判子を押しかけた手を寸前で止める。
おもむろに印鑑を置き、そのカードと貸し出しする図書を見比べる。このカードは手書きで日にち、借りる本の題名、合計冊数を書き込んで提示する事になっている。しかし変なのだ。カードに記名されている題名と本の題名が一致していない。更なる不具合をみつける。
「ラヌメットさん。」
「あ、はい。」
彼はよっぽど私が怖かったのか、そのまま半歩下がってその場で気をつけの姿勢をした。
「あなた、貸し出し禁止図書を持ち出そうとしましたね。これ。」
そう言って重ねて置いてあった本のページをめくると小さな本が一冊出て来ました。
「この本は何の本か分かっていますよね?」
「・・・禁書。不老不死の薬の作り方から禁断魔術まで、禁断魔術の多くが収録された本です。』
おかしいな、しっかり保護魔法かけたつもりなのに・・・・。そう言って頭を掻く。
「この図書館は特殊な魔法によって、どんな魔法でも溶けてしまう呪が施されているのです。それにあなた、三週間前に貸し出した本がまだ返って来てないのですが。いい加減返してください。もうとっくに貸し出し期限は過ぎているのです!!それに、このカードの題名、文字が間違っています!!」
「細かいなぁ。だから、あの本はラネちゃんに貸しちゃっていま、王宮にあるの!!」
「何故王子に貸してしまわれたのですか!!貴方が王子様とご縁がおありなのは承知しておりますがね。あなた、第一他人には貸し出しては行けないと、再三言ったではないですか!!」
バンッと、私はカウンターを力強く叩いた。その音に驚いたのであろう他の利用者達が一斉にこちらを振り向いた。私はそんな事には目もくれずに目の前にいる彼を睨む。
「もう貸しちゃったし仕方ないでしょ・・。彼から返してもらわなくちゃ。最も、僕が王宮に自由に出入りできればいいんですがねぇ。ウォイス・・・先生がお世話係してるみたいだし、頼めば何とかなると・・」
「ウォイスに頼む事は許しません。自身の力で返してもらって来なさい!!どんなに取り繕うとも「本音薬」がありますからね!!その禁書持ち出しに関しても、厳しく罰をうけていただきます。」
そう言って私は、再びずり下がった眼鏡をかけ直し、懐から原稿用紙三枚を取り出す。
「この上三枚びっしりと、反省文を書いて明日の昼食までに私に提出しなさい。二言は許しません。言い訳も許しません。忘れた場合は今後一切の図書の貸し出しを禁じます。」
よろしいですね。そう言って彼を見つめると彼はぶんぶんと首を振って用紙を受け取り一礼して去って行く。
「ちょっと待ちなさい。」
「は・・・はい。」
「これは禁書の件の罰ですからね。王子への無断貸し出しの件と図書を期限が過ぎても返却できてない件とは別ですよ。今週中に本を返却できなかった場合は・・・」
「わわわ、分かったから。もう言うなよっ」
そう言って彼は落とした用紙を拾い上げ、転がるように外へと出て行った。
「まったく、忙しない人ですね。」
そう言って、私は読みかけの本を開いた。
長編オリソニ小説 〜永久の月光花〜No.11
- これは、別のサイト「動くメモ帳」にて公開中の長編オリソニ漫画の小説版です!
- 漫画とは少し表現が変わっていたり、会話文等が少し変更されている箇所もありますが、基本ストーリーは一緒です!
- まだまだ漫画は始まったばかりなので、続きの話が出来次第二巻、三巻、と更新して行こうと思っております。
- 尚、二巻から先は書き下ろしになりますので、pixivの方には出しておりませんのでご注意ください。
- 誤字、脱字等がございましたら言ってください。
この小説を読む際のご注意
・この小説は、あくまで私のオリソニ、を中心としたオリジナル小説です。
・この小説と、ほかのサイトにうPした漫画をセットで読んでいただくと、また面白いと思います。
・この物語の舞台は、ソニック達がいた、100年後の世界です。
それをご了承の上でお読みください。OKな方のみどうぞ
第二十九章~正当と虚構~
「君が、ウォイスなんでしょ?」
一瞬動揺した自分がいた。
「・・・・。」
「ソシアさんがウォイスさんって呼んでたよね。君がウォイスなんでしょ?」
そうだ、ソシアが先ほど俺の事をそう呼んでいた。あんな所で出くわすなどと、思いもしていなかった。あれは完璧に俺の誤算だった。
「そんな事より、怪我人の手当が先だ。何故俺がとどめを刺さすのを止めた。」
「君がさっき言ってたじゃない、『まずは俺の質問に答えろ。お前の質問はその後だ。』ってさ、だから僕の質問を答えるのが道理でないのかな?」
答えてよ。そう言った彼に掴まれた腕が、さらに強く握られた。こんな事で、いつもミスをする事のない俺がミスをした。明らかに動揺している事が分かる。
「俺はウォイスだが、お前など、見た事もない。あの時が初対面だ。」
お前の捜している奴は別の奴ではないのか?
「そっか、じゃあ何で僕に本名を明かさなかったの?」
「初対面の奴に本名を明かすのは訳あって懸念している。まぁ、そっちも上の方だが、名前の・・・・。おかしいか?」
「そっか、なんか今日の僕おかしいなぁ・・・。」
どっかで見た気がするんだよ、君を
「どこかの町であっても可笑しくはなかろう。ところで、カオスエメラルドは・・・・。」
「あっち。ソシアさんに渡してきたよ。」
彼はそう言ってソシアの方を指差す。あれほど不用心にものを初対面の人に渡すなと言ったのにな。
ソシアのその手には、海の底のように青いエメラルドが一つ、彼女の手のうちにあった。
回章~持論と偽善と愛と~
「よく聞け、これから封印の計画を言う。」
二重大結界についての打ち合わせの会議を開く。・・・と言っても、魔力を持つ者同士でのテレパシーでの会話だが、
「まずは、封印のために必要となる人柱についてだが、此処はシャドウとシルバー・・・で良いな」
反論がないから了承した事にしておく。
「肉体は封印せず、魂と分離させて後に破壊する。理由は知っての通り、紅月の体にはものすごい量の魔力が溜め込んでいるからだ。」
「待ってよ、何でラヌメットさんを殺さなくてはいけないの?彼はこの計画に利用されただけなんでしょ!?」
横から弟子が口を挟む。数年前に紅月に滅ぼされた王家の元王子だ。 無論、この会話も他の仲間達にも聞こえている。
「口答えするな×××、これは仕方がない事だ。」
「何で仕方がないの!?彼は、あのなんちゃらって言う一族の生き残りで、そのなんとかの知らない人に取り付かれて操られているだけなんでしょ!?」
あの人は悪くないんでしょ!?彼の一言に俺は『分かっている』そう答える事しかできなかった。
俺は恐れている。また、あんな事が起こるのが・・・。
「だが、肉体がある限り彼奴はまたラヌメット・・・基(もとい)紅月の体をとりに来るだろう。」
「ならウォイスが・・・!」「これで一旦終わりにする。」
あの時、そのまま自分勝手に会議を終了した。あの時の事は自分でも自重している。
その後、一応弟子には謝った。その子も謝った。彼は悪くはないのだが。
紅月、闇の住民もろとも封印し、あの子が結界内部に引き込まれた後に大結界の呪文に細工が施されていたのに気がついた。
だがもうそれは、後の祭りだった。
あの子はもう・・・・・
×××
最近・・・とは言うものの、数十年程前の話しだ。
私の新しい主として守る事となった若い小娘との出会いの話し。
率直に言うと私はこの村で、私は恐れられている。別に何をされた訳でもした訳でもない、ただ純粋に恐れられているのだ。そうでなければ年に一度、私を祀る祭り事も行われるはずないのだ。
私ですか?私はこの“ルリの森”を守る守護神。名前はとうの昔に忘れてしまいました。
別に私が好んでここのカミサマになった訳ではないのです。
どこかの勝手な魔導士が、当時生身だった私に呪いをかけ、木と同化してしまったのです。
おかげで今の私は、当時の膨大な知識しか持たないまま生ている。だって、そのまま都へと戻る事は許されなくなってしまいましたので。
月がない、新月の時のみ魔力が弱まり、私の呪いは一時的に弱まる。その時のみ私は昔のように動く事が可能になるのです。その時を狙い、私は何度も都へ行こうとしました。
しかし朝になれば動く事は不可能になり、都に行けず私は呪いのせいなのか、元の位置に戻ってしまいます。
さらに植物との同化のせいで、植物の寿命生きられるようである。私の愛人はもうとっくの昔にしんでしまいました。それが一番悲しい事でしたかね。
その女性は守護者の娘様で、後にここを守るために次ぐと、聞いてはおりました。
その方がお無くなりになられた次の日からその娘様が私の新しき守るべき者となりました。
「よ・・・よろしくお願いします。」
何故あの人が頭を下げるのか分かりません。
私はこの方が幼い頃より大嫌いでした。恐がりで、いつもおどおどしていて大嫌いでした。
私が何故この方を守るのか、正直分かりません。記憶を一部ぬかれたのでしょうか、それともこの百年間で、考える事をしなくなってしまったのでしょうかね・・・。
ただ私は、この森の守り神として、この一族を守り続ける使命なのかもしれないと思いはしていますがね。
「泣き虫では困りますね。そんな事では悪しき者をこの聖なる森へ入れてしまいますよ。」
私が普通の姿を見た時の驚き方はすごく面白かったですね。
その日が初めてだったかもしれないです、都へ赴く事をしなかったのは・・・・
「私が手伝います。知り合いの魔導士さんに頼んで、ただ、何らかの代償がかかるかもしれませんが・・・。」
「それでよければ・・・」と言いました。こんな守護者さんは初めてです。
「よろしくおねがいします。」
私は頼みました。また日の当たる時間に動く事ができるようになるなら・・・・と。
彼女は嬉しそうに、都へ跳んで行きました。連れてこられた魔導士は、あの時の魔導士とよく似ていて、少々警戒してしまいました。
彼の言い分によれば、その人は彼の子孫に当たる人なのだそうです。彼は謝り、その呪いを解いてくれました。
ただ、完全には解く事はできませんでした。
それでも彼のお陰で、元のように動く事は可能になりました。瑠璃の森の外には出る事はできないようですが。
それでも良かったのです。動けるようになっただけでも。
彼曰く、これは当時かけられた呪いの後、この森の精霊(木霊)が植物と同化した自分自身に乗り移ったがために、この森から出る事はできなくなったという。
そりゃあそうだ。森を育み、平和を保てているのはこの森に妖精がいるからだ。妖精が森から出て行ったとなれば、その森は死滅すると言われている。
私から中にいる妖精を引きはがすとなるとリスクが大きいらしい。よくは分かりませんがね。
さらに運が悪い事に、この木はこの森の基盤となる大樹だったようで、その分格の高い妖精(木霊)が住み着いてしまったようでした。
さらに、術に失敗した場合に大樹が枯れれば、中に宿っていた妖精も消滅してしまいます。その妖精様はどうやらこの森の妖精さんの中でもリーダーに当たる妖精様のようでして、その妖精様が消滅すると、下っ端に当たる妖精様達は主人を失ってしまい、新たなる主人を求めて別の森へと出向いてしまうとの事です。
そのため、この森は死滅する事に間違いはないそうです。
魔導士が帰宅後、彼女と二人になりました。
「ありがとうございました。貴方は苦手ではございますが、私を歩ける様にしていただいた事は感謝いたします。」
元から話す事は苦手でしたので、口が悪い辺りは勘弁していただきたいです。これでも感謝はしているのです一応。
「はい。いえ、貴方が喜んでくだされば、私は嬉しいです。これからは、力を合わせてこの森を守護しましょうね」
彼女は戸惑っているものの、それでも私の言った事を理解したのか、いつも通りの笑顔で私に手を伸ばしました。
私はその手を強く握り返して答えました。
「よろしくお願いします。これからは私が側で貴方を守り抜きます。」
いつか、今日の借りを返すために・・・・
第三十章~気まぐれと~
「スパークの事だが、目覚めるまでしばらくかかりそうだ。」
ガリャリ、とウォイスがスパークの寝ている部屋のドアを閉めた。
ここはテュリネイトのミルフィーユのお屋敷。スパーク以外の全員は今はリビングにいた。
治療は一通りウォイスさんがやってくれた。ウォイスの治療が早かったお陰なのか、紅月から呪いをうけたステアの足の痣はすっかり良くなり、直にうけた右足のふくらはぎの辺りだけを包帯でぐるぐる巻きにしているだけであった。
サファリは何ともなかったような素振りでソシアさんとお話ししている。ウォイスがスパークの寝てる部屋から出て来たのに気がつき駆け寄って来た。
「ウォイスさん、助けてくれてありがとうございます。スパーク・・・大丈夫なんですか?」
「大丈夫だと思うが。外側の傷などよりも、精神面でのダメージの方が大きいかもしれないな。」
「そうですね・・・・・。」
サファリはシュン・・・。と小さくなった。
気分でも変えようと思ったのだろうか、ソシアが開放的な大きな窓を開け放った。「うーん気持ちいいです」と言って、思いっきり深呼吸する。
「ところでミルフィーユ、お前は何故気付く事ができなかった。結界を破って侵入されたのはそもそも、お前が気づかず連れて来てしまったからであろう。」
「せやから言うてるやろ!!うちかて気づかれへんかったんや。スペードはん達の気配で闇の気配が消されて・・!」
ミルフィーユも負けじとウォイスに言い返す。
「だからお前に何度も言っていただろう。入り口に術解きの印を結んでおけと」
「そんなレベルの高い呪印うちが結べるかいな。ならウォイスはんがはよう結んでくれれば良かったやないか」
ミルフィーユは半べそでがっくりと肩を落とす。
「ところで何故スパークがあの技を使う事ができた。」
「私もそれが不思議でたまらないです。ウォイスさん。あれはアーチメイジクラスのアファレイド大天候魔法。天候魔法を一度だけ強化する事ができる大魔法です。現在は危険な魔法として王宮倉庫に厳重に保管されてると聞きましたが・・・・。魔力を何も持っていないあの子に使えるはずはないのですよ。」
ソシアは考え込む。かぶっていたシスター帽が風でなびく。
「ルシアはメイジには届いていなかった。なのになぜ覚える事ができた。」
「さぁ・・・それは本人に聞かないと分かりませんし・・・。まぁ、彼女は元王女様ですし、書物を盗み読むする位は簡単でしたでしょうしね・・。」
ミルフィーユはしょんぼりとしたまま部屋をあとにして、ソシアさんとウォイスさんは何やら怖い顔をしたまま黙り込んでしまってて、僕達三人(?)は顔を見合わせた。
ステアはすぐにおにぎりを食べる作業に戻ったけど。
「あぁっ!!」
唐突にサファリが大声で叫んだ。
「どうしたの、サファリ?」「ふぐぐ?(何だ?)」「「!?」」
その場にいた全員がサファリに注目した。
「さっきの話しだけどさ、分かったよ。スパークの特殊能力だよ・・・・。スパークの能力は天候魔術とよく似ているし、効力も強い。でも私はその魔術の効力とかよく分からないんだけど。」
へへへへ、と笑って頭をかくサファリをウォイスは凝視して、また思考の海へと潜って行ったようであった。
「ちがうかな?」
「それだ!ルシアが覚えられた理由もそれろう。ランクが低くても、効力が大きくできればその魔法と平行してさらにランクの高い魔法を出す事は可能だ。スパークは多分たまたまなのではないだろうか」
そうだ。それだ。自分で納得したウォイスは微笑んだ。
「あ、そう言えばこれ、あなた方に返さなくてはいけませんね。」
ソシアはそう言って、持っていた鞄の中から青いカオスエメラルドを取り出した。
「次は、ラヌメット山脈に沿ってずっと北上して行かれるのですかね?」
「え、うん。まぁ、地図にはそう書いてあるからね。・・・・というか、何で知ってるの?」
「この土地の地図はもう頭の中に入っているので。」
手渡されたカオスエメラルドを手で抱えていると、ウォイスさんが見かねて魔法で一つ、小型のショルダーバッグを出してくれた。
見た目にあわず大容量で、地図とカオスエメラルドを入れたのに、まだまだ入る感じだ。それに、重さもあまり変わらないみたいだし。ド ◯ え ◯ んの四次元ポ ◯ ットかと一瞬思った程だった。
そのあとすぐにウォイスさんとソシアさんはミルフィーユさんとのやり取りがあった魔法をかけに、遺跡へと向かった。
僕達はとりあえず、スパークが目覚めるのを待つ事にした。
NEXT→No.12
あとがき
今回は短かったねぇ。(´・ω・`)=з
どうも黒っす。長いの期待してた人すみませんね。短くて
これでも前回よりも四千文字くらい少ないかと・・・((えwww
やけに短かった。だから久しぶりに一枚の記事でまとめられたよ。
ではまた十二話で合いましょう(*´∀`*)
長編オリソニ小説 〜永久の月光花〜No.10 2/2
第二十七章〜恩師と王子〜
どうしよう、さっき道ばたで起きていたごたごたのお陰で、足止めを喰らってしまった。それに、民衆が逃げる時に腕を怪我してしまった。
「スパーク達、大丈夫かな。」
人混みが退いてから、その先では一人の女性が倒れていた。僕は、そんなのには目もくれず、スパークの言っていた辺りに行く事にした。
「うーん」
どうしてだろう。スパーク達は、「お城の近くに神殿がある」と言っていたけど、どこにもそれらしきものは見当たらないよ。
「其処で何をしている。」
そこで、見知らぬ男の人に声をかけられた。側には、もう一人、女の人がついている。
「「!!」」
二人は、僕を見て、驚いたような顔をした。僕はその二人の事を知っているはずも無いから。
「君は誰?」
そう答えた。
「まずは俺がした質問に答えろ。お前の質問はその後だ。」
すごく強情な、しかし、どこか懐かしいその声は、どこかで聞いた気がした。
「カオスエメラルドの神殿を捜しているんだ。スパーク達が、先行っちゃって。僕、置いてかれちゃったんだ。」
そう言うと、更にその男の人は驚いたようで、目を見開いたが、それは一瞬の事で、また、無表情に戻ると、「俺も其処に用がある。」そう言い、ついて来い。と言った。僕を其処まで案内してくれるようだ。
どうやら、神殿は、部外者が入れないように、魔除けをしているらしい。だから、部外者と思われた僕は、神殿の入り口を見つける事はできなかったのだ。
「僕が質問に答えたから、貴方も、僕の質問に答えてくれますよね。」
そう言うと、その人は歩みを止めず見素っ気なく答えた。
「アイラス。そう名乗っておこうか。後の娘はソシア。」
「よろしくね。アイラスさん、ソシアさん」そう言うと彼は、照れたのかは分からないが、少し、歩みを早めた。
ソシアさんは「こちらこそ、よろしくねだって。ウォ・・あ・・アイラスが。」そう言って、また彼の後にぴったりとくっついて行った。
アイラスさんは、お城の裏まで廻って、地面の穴に入り込んで行った。ついていたソシアさんも、無言で入って行った。僕も入って行った。中はスロープで、そう長くはなかったものの、ついた時には、敷石に尻餅をついてお尻がいたかった。
ついた所は庭園のようだった。迷路のように垣根がたっていて、迷子になりそうだ。向こうには、白い建物がちょっとだけ見えた。
「嫌な気がする。闇共に入られたっ!!」
「急ぎましょう。ウォイスさん!!」
「シャオン、急げ!!スパークがやられるぞっ!」
「え・・・・。」
何で僕の名前を知っているんだろう。それにさっき、ウォイスって・・・。
そんな事が脳裏によぎったが、反射的に立ち上がって、二人の後を追いかけた。
二十八章〜現世に在らぬ者〜そのニ
すると、スパークの父が、態度を一変して、こう言い放った。
「どうしましょうか、紅月様、バレちゃいましたよ。」
「紅・・・紅月!?」
「ふん、お前の部下の調べが甘くてボロが出てしまったではないか。誰であろう。我が粗奴を片付けねばならぬ」
どうやら紅月は、スパークの母に寄生しているようだ。自分のミスを、部下であろうと思われるものになすり付けている。
「にしても、守護者のあんたが気がつかないって言うのはどうなんだ?」
「しゃーないやろ、二人の魔力はまるっきり隠れてったんだから。守護魔法も破られたんや。」
「畜生っ!!」
俺の隣をするりとステアが抜けて、紅月(自分の母親の肉体)に蹴りを入れた。しかし、その蹴りは、紅月に意図も容易く捕まれた。
「!」
「我の計画に逆らう不届き者共は、殲滅せねばならぬ!!『炎天悪呪』」
瞬間、つかまれていたステアの右足が瞬時に燃え上がった。
「うあああっ!!」
燃えたのはほんの三十秒程度だった。燃えたステアの右足には、黒い痣が、大きく広がっていた。そのまま足を突き放され、足をおさえてステアはそのまま地面にへたり込む。
「どのようなものでしょうか。紅月様使えますか、この体は・・・」
「問題は無い。ただ、こいつの魔力ではあまり大技は使えぬ。」
懐かしい母親の面影は消え失せ、自分の野望にだけ燃えている。その目は、青いどこまでも透き通っている母の瞳とは違っていて、まるで、鮮血のような赤い赤い、ワインレッドの瞳だった。
「お前もその姿は止めろ。我よりも良い肉体を持っているのだからな。」
「分かっておりますよ紅月様。確認しておきますけれども我々の目的は、祖奴が持っているカオスエメラルドと、ここに居る者共全員の命なのですからね。」
知っておる。紅月がそう答えたのをきっかけに、父親の体は地面に倒れた。そして、影からは見覚えのある。娘が出て来た。
そして、俺の方を見て深く礼をする。
「おひさしぶりね、スパーク。お母さんの様子はどう?あ、ごめんなさぁーい、もう死んでたわね。」
「あんた・・・。らいざ。」
「あら、覚えてたの?嬉しい限りね。まぁ、その記憶力はたたえてあげる。」
挑発的に俺を誘う赤い瞳は、幼かった時、父親を殺した目と同じ。
「ふざけんな・・・・・・。」
俺は、地面に思いっきり拳をついた。体中の力という力が一点に集まって行く。
「あら、何かする気?」
ふふふふ、またあの目だ。俺の父さんを見下したその目が、俺は嫌いだ。
昔のような中途半端な技じゃ、こいつには効かない。分かっている。
だから俺は更に力を一点に集める。
「スパーク、だめ!それは・・・・。」
サファリは俺に近寄って来る。下手したら死ぬのくらいは知っている。でもそれ以上に、昔の恨みが募っていた。
「雷電来有流華伝!!」
この魔法は、お母さんが昔自分の能力を最大限に引き出す事ができると言って、この魔法を教えてくれた。昔は使えなかったけど、今なら使いこなせるはず。
バシュッっとスパークの周りの空気が一瞬にして覇気と化した。その勢いは凄まじく、寄って来たサファリはそれを諸に受け、吹き飛ばされた。
そのまま木にぶつかり、気を失う。
「それは、アファレイド王宮天候魔法のアーチメイジクラスの魔法!?なぜきさまがそれを」
低く姿勢を保ちながら、ライザは驚いた表情を見せた。
「小さい頃に母さんに教えてもらった。たった一つの俺が使える魔法だよっ!!」
瞬間、ライザに飛びかかる。スパークの拳は彼女の胸元に直撃し、空にバシュッと、稲妻が走って彼女に落ちる。 姿勢を低くして、スパークの覇気から耐えていたライザはその攻撃を諸に受けた。
「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」
雷が直撃したライザは、その場に倒れ込んだ。スパークも、肩で大きく呼吸している。
「十年前の俺と見比べんなよ、バァーカ」
へへへ、とスパークは笑い、膝を折った。
「成る程、お前の母がその魔法を教えたのか?」
すばらしい。母の格好をした紅月が笑う。もうその姿は、昔見ていた母ではなかった
「この魔法は王宮秘伝術だ。高い魔力も必要となる。お前の力ごときでは一度で終わりだろう。くだらない戯言で駆け落ちした夫婦の息子ごときに負けるとは、情けない。」
彼女?いや、中の人物は男ではなかろうか、彼は靴を鳴らし、俺のすぐ側までよる。そのまま、俺の目の前まで迫り、頭に手の平を突きつけた。
「我は野望を邪魔する者共を潰さねばならない。その中の一人に、お前も載っている。あの間抜けな王の息子が捜していたウォイスもな。」
この名前に聞き覚えがあるだろう?
彼女は俺にささやいた。聞き覚えのある、あの母の声で
「知ってんのか、ウォイス。」
「知らない訳が無いであろう?彼奴は我の知る者ぞ。」
彼は笑う。不気味な笑みで、その突き刺すような冷たい瞳に俺は凍り付いた。いつの間にやら彼女の手の平には、小さな火の玉ができていた。それは次第に誇大化してゆく
「お前に雷技は効かぬからな、冥土の土産に教えてあげようか、選ばれし者よ」
シャオンの正体を・・・・。
「レヴィアイディア!!!」「スパーク、どいて!!」
急に金縛りのように硬直し、動かなかった体が横へ倒れた。瞬間、俺が居た辺りを、白い光が通過し、紅月の手の中にある炎とぶつかり合い、火花を散らす。反動で腕の中からカオスエメラルドがすり抜けて、地面へ落下した。
気がついてシャオンがあわてて拾う。
「無茶し過ぎだよスパーク。置いてくくらいなら連れてってよ。僕もお菓子食べたかったのに!」
「シャ・・・オン?」
目が霞んで良く見えない。其処にはいつも通りの彼奴が居て
「早ようシャオンはん、こっちや。」
ミルフィーユの声が聞こえて、そこで、意識は途絶えた。
「後の二人もはよう運んでください。」
「分かってるよ!」
神殿の影になる所、紅月達からは死角になる所へスパークを運んで、残りのサファリとステアを運んだ。三人とも意識は無くって、ほとんど僕が負ぶって運んだ。
「重体ですね。」「せやな」
先刻、紅月に魔法で片足を負傷したステアの足を撫で、ソシアは言った。
「どういう事?」
「この魔法は解くのも難しいんです。それに、この魔法は、ほんの少しでも魔法が当たれば、それと一緒に呪いが罹る・・・んです。それで、放置しておけば体を蝕んでゆき,早くて二日、遅くて一週間で死ぬと言われてます。あの人なら治せない事は無いですがね。 あ、女の子の方は大丈夫です、たいした怪我はしてませんから。」
確かにステアは、先ほどは膝までしかなかったはずの浅黒い痣が、太ももまで上って来ていた。
ソシアさんの見立てによれば、ステアは重体、サファリは軽傷、スパークは僕が引き倒した際に腕を軽くねんざしただろう。と言われた。
〜〜〜〜
「何故、お前がここにいるのだ!!」
ウォイス・・・・アイラス
ウォイスの魔法を振り払い、深く息を吸う。やはりこの女の体では、魔力が足りない。仕方の無い事ではあるが、このままではまた封じられる事は確かである。
我の邪魔をするものは全て殺さねばならない。後少しでメインの選ばれし者を殺せた。後から、我が最も要注意している人物からの不意の攻撃により、気を逸らした隙に、いつの間にきたのだろうか・・・・・。
分からない見覚えのある少年が、選ばれし者を回収した。
「紅月様の・・・・邪魔はさせぬ!!」
真横を、負傷したままのライザが駆け抜けてゆく。
「何が邪魔だ。お前らのくだらない計画の方が、よっぽどこの世界にとっては不都合な事だ。」
「ぬかせっ!!悪魔の王サタン ベルゼブブよ 汝(なんじ)我の意を持つ魔に属し者 我の血肉をささげ仕えし者 ここに集えっ!!」
この魔法は召還魔法である。彼女はこのたぐいの魔法が得意である。
ライザが唱え終わると同時に、彼女の足元に魔方陣が発生し、無数の黒い者共が集まり始めた。
「スプリフォ!」
その瞬間を狙ってか、ウォイスが呪文を唱える。瞬時に白い波動が広がる。
実態と化した黒い魔属の者共は、白い波動に当たった瞬間に紙のように散り散りになって消滅した。
スプリフォは召還された魔界生物との契約を取り消しにできる魔法。しかし、この魔法はかなり高度な魔法のため、素人が出せるような安易なものではない。
「!?」
「闇魔法に対しては堪能なようだな。だがそれと対等である光魔法は学んでいなかったようだな。甘い。リディス!」
闇魔術と対等に戦えるのは光魔術しかない。つまり、闇魔法の効力を無効にする魔法を光魔法は持ち備えているのである。
リディスは、スプリフォを受けたものに対して魔法を発動すると、効果が二倍になる。
「レファル!」
紅月が叫んだ。瞬間、紅月が倒れ込む。
「ふむ、やはりこっちの方が良かろう。あの体は動きやすいが、魔力は足りぬ。」
瞬間ライザの態度が一転し、ウォイスを見て薄く笑う。
「仕方ない。今日は諦めてやろう。これ以上弟子の体を酷使する訳にも行かぬ。」
「転身術・・」
「あの体は好きにしろ。動き辛い。」
「ふざけるな!」
ウォイスは手の平に光の玉を作る。それを投げようとしたタイミングでその手を押さえつけられた。
「やめて・・・・。」
その声に気を逸らした隙に紅月は瞬間移動で逃げてしまった。
声を掛けた奴は、曇りの無い青い瞳。
「君が、ウォイスなんでしょ・・・?」
そう問う少年の問いに俺は、答える事ができなかった。
NEXT→No.11
あとがき
やっと記念すべき十話ですな(笑)
小説を書き始めたのは六月中頃ですが、本編は四月から描き始めたので、ある意味一年程経ちます。
同時進行で過去編の小説を描いてくださってるporuさんや、オリソニを貸してくださった大勢の協力者樣方にはとても感謝してます。
もちろん、この小説を読んでくださっている皆様もそうですが。
ほんわかしてる小説が書けるようになりたいですね(笑)
まだまだ未熟者なので、なかなか上手くかけていない所も多々あるとは思いますが、今まで飽きずに読んでくださった皆様、これからもどうかよろしくお願いします。
終わります。
長編オリソニ小説 〜永久の月光花〜No.10 2/1
二十五章〜現夢〜
「なぁ、あんた何もんだ?」
神殿の側まで走って、そのまま路地裏に逃げ込んだ。皆の息が整うのを待ってから、赤毛の犬が俺に聞いてきた。
「気まぐれな守護者、放浪人だな。さっきは助かった。ありがとう。」
そう言って、あの人に良く似た選ばれし者本人に礼を言う。
「自然と体が動いちまってさ。ああいうもの、昔にも何度か見た事があって、見過ごせないたちなんだよ。」
俺から目を逸らして通りを伺う。
「ねぇ、貴方名前は?それに、あのさっきの女の人は誰なの?」
選ばれし者と一緒に居たもう一人の女の子が俺に聞いてきた。必要があれば俺を殺す気の用だ。片手には、俺の背丈程ありそうな筆が握られていた。
「俺はクロース、彼奴はミズカ・コオリ。紅月の幹部で暗殺者だ。最近あの女の動きが激しくてな、たまに様子を見にこの街まで降りてくるんだ。」
「で、たまたま私達を見かけた。と」
「そう言う事になるな。」
俺は空を見上げた。うっすらと赤くなってきていた。
「お前らはカオスエメラルドを取りに来たのだろう。ならば大通りを通らずにこの路地を使え。ここをまっすぐ進めばバーがある。其処にはダストシュートがある。ダストシュートに入れば、神殿はすぐ其処だ。」
「でも、何であんたがそんな事知ってんだ?」
軽く俺を睨んだ選ばれし者は先ほどと変わって、俺を警戒し出したようだ。
「色々と、その辺の事は知っている。後はミルフィーユにでも聞いたんだろう。神殿に行けば自然とエメラルドの在処まで導いてくれるさ。」
そう言って俺は、通りの方へと歩んで行った。いや、正確には行こうとした。
「あんた、誰なんだよ。」
うでを掴んだのは選ばれし者、本名で呼ぼうか、スパーク。こいつは俺を返してはくれなかった。
「だから、俺はクロース。ある所の守護者。」
スパークが驚いて掴む腕の力が弱まった所で彼奴の腕を取り払った。
「んじゃ」
通りに出れば、人が大勢居るため、俺を捜し出す事は困難になる。それを予測して、そのままアポトスの方へ、帰路についた。
「なぁ、あの人の事信じていいと思うか?」
「まぁ良いんじゃね?助けてもらった訳だしさ。」
クロースがその場から立ち去った後、その人が教えてくれたバーの方へ、とりあえず向かいながら、そんな事を話し合っていた。
「でもね・・・・なんか怪しくない?」
そのままバーの恐らくはもう使われていないと思われる、木の板で蓋をされているダストシュートの前で立ち止まった。
「答えは、このダストシュートに入って行けば分かるんじゃないか・・・よっと」
スパークは、そのままその蓋を開け、中の方へ滑り降りて行った。
「ちょっと待てよっ!!」
ステアも続けて中に入って行く。
「待ってよ!!・・・・もう。」
残ったのは自分だけになって、、ヤケになって、サファリも入って行った。
「君にお願いがあるんだ。聞いてもらえるかな。」
旅立つ前に、わざわざ俺のうちまで来て、あの人を外へ追い出して、彼奴は俺に行って来た。
「僕、死んじゃうかもしれないんだ。」
「知ってる。」
冷静に、そして冷淡にそいつに返答する。
「人柱にね、なってくれる人がきたんだ。名前はね」
◯◯と、××。
「で、俺に何をしろと。」
「一人の方には肉体と、少しだけだけど、魂をおさめる。もう一人には魂だけを納めるんだ。」
「肉体は、焼き捨てるのではないのか?」
「聞いた話ではそうだよね。でも僕、あの人は悪い人なんかじゃないと思うんだよ。本当は優しい人だもん。だから、」
元に戻る方にかけて、白い彼に、肉体を預ける。
だからお願いなんだ。
僕が絶対に、あの人を元に戻すから、優しいあの人に
お願い。だからせめて、君だけでも良いから、戻った時に、優しく迎え入れてくれないかな?
あの人は、大罪を犯したけど、本性じゃないと思う。
何か、原因があるんだ。何か・・・・。
僕は、その原因を、最後の戦いで見つけ出す。
僕は、命をかけて、あの人を元に・・・・戻す・・から。
お願いだよ。 上手く・・行って戻って来れたら、 今までのように友達と・・・・して、迎え入れて・・・くれな・・・いかなぁ?
後半の方で、その子は涙ながら俺に頼み込んだ。きっと、不老不死の俺にしかできない事なのであろう。
この子は信じているんだ。彼奴が本当はとても良い奴だって、分かっているから。
「知っているさ、俺だって。彼奴は生真面目で、優しくてそんな、親友を殺すような奴じゃない事くらいさ・・・。」
俺はもう、無表情を維持する事ができなくなって、目から大粒の涙が落ちて来た。
「良いかな・・・?」
「もちろん、良いに決まっている。」
「この事は、誰にも言わないで。お願いだから。」
「それも承知の上だ。」
「ありがとう。」
そう言って、あの子は立ち上がった。
外から、待たせているあの人の声が聞こえて、『用事は済みました。』なんて、大声で叫んでいる。
「よろしくお願いします。」
そう言って、あの子に頼まれた。それで、俺があの子を見たのは最後だった。
俺は今でも守っている。その幼いあの子のお願いとやらを。
数年前に、事件で崩壊したアポトスで、未だに暮らしている。
いつか彼奴が来た時に、言ってやるためだ。
「お帰りって」
二十六章〜現世に在らぬ者〜その一
「「うわーっ」」
ダストシュートの中に入ると中は長いスライダーになっていた。俺達はその中を、すごいスピードで滑っておりて行く。何時だったかな、昔はこの街でも争いがあったとかで幾つもの抜け道が造られたらしいが、もしかしたらこれの事なのか?と考えたりもした。
そしたら目の前に光が射してきて
「うわっとっとっと・・・・」
勢い余って前のめりになったが、体制を立て直したので転ばずになんとかすんだ。後では、追いかけて来たステアと、サファリが折り重なって倒れていた。
「ここどこだよ・・・・」
周りを見回してみる。どうやらここは、町外れのようだ。周りは草木に囲まれており、真正面にはあまり大きくはないが小さくもない石造りの建物が建っていた。妙だ。人が居ない。
「あーあ、デザートのシュークリーム、潰れちまった。ん、着いたのか?ここが神殿・・・・?」
よっこいしょ、と気絶している、サファリを置いて、先ほど打ったと思われる顎を撫でながらステアがたちあがった。自分の体の事よりも紙袋に入っていたと思われるデザートをみて、名残惜しげに側にあったゴミ箱に投げ入れた。
「あーもー、最悪っ!!」
スッと立ち上がり、お尻に付いた草を払いのけて俺の方へよって来る。
「俺はあんたのヒップドロップ喰らって、もっと最悪だったぜ。」
シュークリームが、とまだブツブツ言うステア。あんたは自分の事を気にしないのかと、ツッコミを入れたくなった。
「ここが、第一の神殿?」
「だろうな。」
神殿の内部には幾つもの部屋があって、次々とステアが開け放って行った。
その中で一つだけ、ステアが開ける事ができない扉があった。ここがもしかしたら選ばれし者だけが開ける事のできる場所なのかもしれない。俺は、手を伸ばしてその扉に触れた。すると、その手を中心として、何やら魔方陣のようなものが現れ、やがて消えていった。それを見届けた後、重そうな石造りの扉に手をかければ、意図も容易く開いた。
そして奥には、蒼い光りを放ち輝く宝石が飾られていた。
「これが、カオスエメラルド」
「蒼い、わね」
「食えるのか?」
「「それは無い。」」
蒼いカオスエメラルドを持ち、暗闇では目を細めてしまう程明るい光に、しばし見とれてから、俺達はその場を後にした。
ボケたのか、生まれ持ったものなのかも分からないステアの言動に、二人でつっこんだ。
「なぁ、ところでよ。シャオンの奴、どうしたんだろうな。」
「そうだったな。でもよ、俺達、あの人に近道を教えてもらったから、ちょっと早く着いちまっただけだろ。きっと外に行けば居るさ。」
だが、外で待っていた人物は、シャオンではなく、予想外の人物であった。
「あ、スパークはん、先に来てはったんですね。」
ニコニコして神殿の外で待ち構えていたのは、ラフな格好に着替えたミルフィーユだった。そして、その隣には・・・・・・・え。
「よ、スパーク、久しぶり。」
「どこに行っていた。心配した。」
俺にそっくりなグレーの針鼠と、青い髪の猫。
幼い頃、嫌という程見た。懐かしい2人組・・・・・・。
「・・嘘・・・だろ・・・・・・。」
「え。」
俺と、隣に居たサファリも二人の前に呆然と立ち尽くした。
「どないしたんや?」
「なんだ、スパークの知り合いか?」
「違う・・・・。」
「おかしいよ、こんなの・・・・。」
「なにがおかしいん?」
ちょこんと首を傾げて、ミルフィーユは問い返す。
「だってこの人達、十年前に死んだ、スパークの両親なんだよ。」
「「え」」
ステアは理解できないというようにその二人を見つめる。ミルフィーユはというと、知らなかったとでも言うように二人を凝視した。
「何を言ってるんだ、サファリ。俺達、死んでなんかねぇよ」
相変わらずへらへらと笑う声、仕草、全てがあの時と同じままだった。
俺は二人を見つめたまま声を発する事はできなかった。
「好きな天気は・・・?」
必死で紡いだ言葉はこれだった。ただ、本物であるように、そう願った。
「晴れ、だろ?」
そう、お父さんはそれでいいんだ。守るものを奪うものを早く処分する事ができるからだ。問題は、母親だ。
「お母さんは」
「雨だろう。私の母国は雨が少なかったからな。」
「え。」
違う。お母さんは天候で、雷が好きなんだ。其処から俺の名前がつけられた事も知っている。
「あんたたち、誰だ。」
瞬間、二人からミルフィーユが遠ざかった。
「あんたら、一体誰なんや!!」
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