黒の国〜影の森〜

誰しもハッピーエンドな訳は無いのだから。バッドエンドはすぐ其処まで来ている。

長編オリソニ小説 〜永久の月光花〜No.10 2/1

二十五章〜現夢〜

 

「なぁ、あんた何もんだ?」

神殿の側まで走って、そのまま路地裏に逃げ込んだ。皆の息が整うのを待ってから、赤毛の犬が俺に聞いてきた。

「気まぐれな守護者、放浪人だな。さっきは助かった。ありがとう。」

そう言って、あの人に良く似た選ばれし者本人に礼を言う。

「自然と体が動いちまってさ。ああいうもの、昔にも何度か見た事があって、見過ごせないたちなんだよ。」

俺から目を逸らして通りを伺う。

「ねぇ、貴方名前は?それに、あのさっきの女の人は誰なの?」

選ばれし者と一緒に居たもう一人の女の子が俺に聞いてきた。必要があれば俺を殺す気の用だ。片手には、俺の背丈程ありそうな筆が握られていた。

「俺はクロース、彼奴はミズカ・コオリ。紅月の幹部で暗殺者だ。最近あの女の動きが激しくてな、たまに様子を見にこの街まで降りてくるんだ。」

「で、たまたま私達を見かけた。と」

「そう言う事になるな。」

俺は空を見上げた。うっすらと赤くなってきていた。

「お前らはカオスエメラルドを取りに来たのだろう。ならば大通りを通らずにこの路地を使え。ここをまっすぐ進めばバーがある。其処にはダストシュートがある。ダストシュートに入れば、神殿はすぐ其処だ。」

「でも、何であんたがそんな事知ってんだ?」

軽く俺を睨んだ選ばれし者は先ほどと変わって、俺を警戒し出したようだ。

「色々と、その辺の事は知っている。後はミルフィーユにでも聞いたんだろう。神殿に行けば自然とエメラルドの在処まで導いてくれるさ。」

 

そう言って俺は、通りの方へと歩んで行った。いや、正確には行こうとした。

「あんた、誰なんだよ。」

うでを掴んだのは選ばれし者、本名で呼ぼうか、スパーク。こいつは俺を返してはくれなかった。

「だから、俺はクロース。ある所の守護者。」

スパークが驚いて掴む腕の力が弱まった所で彼奴の腕を取り払った。

「んじゃ」

通りに出れば、人が大勢居るため、俺を捜し出す事は困難になる。それを予測して、そのままアポトスの方へ、帰路についた。

 

 

 

「なぁ、あの人の事信じていいと思うか?」

「まぁ良いんじゃね?助けてもらった訳だしさ。」

クロースがその場から立ち去った後、その人が教えてくれたバーの方へ、とりあえず向かいながら、そんな事を話し合っていた。

「でもね・・・・なんか怪しくない?」

そのままバーの恐らくはもう使われていないと思われる、木の板で蓋をされているダストシュートの前で立ち止まった。

「答えは、このダストシュートに入って行けば分かるんじゃないか・・・よっと」

スパークは、そのままその蓋を開け、中の方へ滑り降りて行った。

「ちょっと待てよっ!!」

ステアも続けて中に入って行く。

「待ってよ!!・・・・もう。」

残ったのは自分だけになって、、ヤケになって、サファリも入って行った。

 

 

 

 

 

 

 

「君にお願いがあるんだ。聞いてもらえるかな。」

旅立つ前に、わざわざ俺のうちまで来て、あの人を外へ追い出して、彼奴は俺に行って来た。

「僕、死んじゃうかもしれないんだ。」

「知ってる。」

冷静に、そして冷淡にそいつに返答する。

「人柱にね、なってくれる人がきたんだ。名前はね」

◯◯と、××。

「で、俺に何をしろと。」

 

「一人の方には肉体と、少しだけだけど、魂をおさめる。もう一人には魂だけを納めるんだ。」

「肉体は、焼き捨てるのではないのか?」

「聞いた話ではそうだよね。でも僕、あの人は悪い人なんかじゃないと思うんだよ。本当は優しい人だもん。だから、」

元に戻る方にかけて、白い彼に、肉体を預ける。

 

だからお願いなんだ。

僕が絶対に、あの人を元に戻すから、優しいあの人に

お願い。だからせめて、君だけでも良いから、戻った時に、優しく迎え入れてくれないかな?

あの人は、大罪を犯したけど、本性じゃないと思う。

何か、原因があるんだ。何か・・・・。

僕は、その原因を、最後の戦いで見つけ出す。

 

僕は、命をかけて、あの人を元に・・・・戻す・・から。

 

お願いだよ。 上手く・・行って戻って来れたら、 今までのように友達と・・・・して、迎え入れて・・・くれな・・・いかなぁ?

 

後半の方で、その子は涙ながら俺に頼み込んだ。きっと、不老不死の俺にしかできない事なのであろう。

この子は信じているんだ。彼奴が本当はとても良い奴だって、分かっているから。

「知っているさ、俺だって。彼奴は生真面目で、優しくてそんな、親友を殺すような奴じゃない事くらいさ・・・。」

俺はもう、無表情を維持する事ができなくなって、目から大粒の涙が落ちて来た。

 

「良いかな・・・?」

「もちろん、良いに決まっている。」

「この事は、誰にも言わないで。お願いだから。」

「それも承知の上だ。」

「ありがとう。」

そう言って、あの子は立ち上がった。

外から、待たせているあの人の声が聞こえて、『用事は済みました。』なんて、大声で叫んでいる。

 

「よろしくお願いします。」

そう言って、あの子に頼まれた。それで、俺があの子を見たのは最後だった。

俺は今でも守っている。その幼いあの子のお願いとやらを。

数年前に、事件で崩壊したアポトスで、未だに暮らしている。

いつか彼奴が来た時に、言ってやるためだ。

 

「お帰りって」

 

 

 

 

 

二十六章〜現世に在らぬ者〜その一

 

 

「「うわーっ」」

ダストシュートの中に入ると中は長いスライダーになっていた。俺達はその中を、すごいスピードで滑っておりて行く。何時だったかな、昔はこの街でも争いがあったとかで幾つもの抜け道が造られたらしいが、もしかしたらこれの事なのか?と考えたりもした。

そしたら目の前に光が射してきて

 

「うわっとっとっと・・・・」

勢い余って前のめりになったが、体制を立て直したので転ばずになんとかすんだ。後では、追いかけて来たステアと、サファリが折り重なって倒れていた。

 

「ここどこだよ・・・・」

周りを見回してみる。どうやらここは、町外れのようだ。周りは草木に囲まれており、真正面にはあまり大きくはないが小さくもない石造りの建物が建っていた。妙だ。人が居ない。

「あーあ、デザートのシュークリーム、潰れちまった。ん、着いたのか?ここが神殿・・・・?」

よっこいしょ、と気絶している、サファリを置いて、先ほど打ったと思われる顎を撫でながらステアがたちあがった。自分の体の事よりも紙袋に入っていたと思われるデザートをみて、名残惜しげに側にあったゴミ箱に投げ入れた。

「あーもー、最悪っ!!」

スッと立ち上がり、お尻に付いた草を払いのけて俺の方へよって来る。

「俺はあんたのヒップドロップ喰らって、もっと最悪だったぜ。」

シュークリームが、とまだブツブツ言うステア。あんたは自分の事を気にしないのかと、ツッコミを入れたくなった。

 

「ここが、第一の神殿?」

「だろうな。」

 

神殿の内部には幾つもの部屋があって、次々とステアが開け放って行った。

 

その中で一つだけ、ステアが開ける事ができない扉があった。ここがもしかしたら選ばれし者だけが開ける事のできる場所なのかもしれない。俺は、手を伸ばしてその扉に触れた。すると、その手を中心として、何やら魔方陣のようなものが現れ、やがて消えていった。それを見届けた後、重そうな石造りの扉に手をかければ、意図も容易く開いた。

そして奥には、蒼い光りを放ち輝く宝石が飾られていた。

 

「これが、カオスエメラルド

「蒼い、わね」

「食えるのか?」

「「それは無い。」」

 

蒼いカオスエメラルドを持ち、暗闇では目を細めてしまう程明るい光に、しばし見とれてから、俺達はその場を後にした。

ボケたのか、生まれ持ったものなのかも分からないステアの言動に、二人でつっこんだ。

「なぁ、ところでよ。シャオンの奴、どうしたんだろうな。」

「そうだったな。でもよ、俺達、あの人に近道を教えてもらったから、ちょっと早く着いちまっただけだろ。きっと外に行けば居るさ。」

 

だが、外で待っていた人物は、シャオンではなく、予想外の人物であった。

 

 

「あ、スパークはん、先に来てはったんですね。」

ニコニコして神殿の外で待ち構えていたのは、ラフな格好に着替えたミルフィーユだった。そして、その隣には・・・・・・・え。

 

「よ、スパーク、久しぶり。」

「どこに行っていた。心配した。」

俺にそっくりなグレーの針鼠と、青い髪の猫。

幼い頃、嫌という程見た。懐かしい2人組・・・・・・。

 

「・・嘘・・・だろ・・・・・・。」

「え。」

 

俺と、隣に居たサファリも二人の前に呆然と立ち尽くした。

「どないしたんや?」

「なんだ、スパークの知り合いか?」

 

「違う・・・・。」

「おかしいよ、こんなの・・・・。」

「なにがおかしいん?」

ちょこんと首を傾げて、ミルフィーユは問い返す。

「だってこの人達、十年前に死んだ、スパークの両親なんだよ。」

 

「「え」」

ステアは理解できないというようにその二人を見つめる。ミルフィーユはというと、知らなかったとでも言うように二人を凝視した。

 

「何を言ってるんだ、サファリ。俺達、死んでなんかねぇよ」

相変わらずへらへらと笑う声、仕草、全てがあの時と同じままだった。

俺は二人を見つめたまま声を発する事はできなかった。

「好きな天気は・・・?」

必死で紡いだ言葉はこれだった。ただ、本物であるように、そう願った。

「晴れ、だろ?」

そう、お父さんはそれでいいんだ。守るものを奪うものを早く処分する事ができるからだ。問題は、母親だ。

「お母さんは」

「雨だろう。私の母国は雨が少なかったからな。」

「え。」

違う。お母さんは天候で、雷が好きなんだ。其処から俺の名前がつけられた事も知っている。

 

「あんたたち、誰だ。」

瞬間、二人からミルフィーユが遠ざかった。

「あんたら、一体誰なんや!!」

 

 

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一人は言う、「戦いなど虚しいだけ』 一人は言う、「僕を一人にしないで』 一人は言う、「人それぞれで良いのだ』 一人は言う、「片方を守る者、もう片方を失う」 四人は言う、「この物語を作るのは自分たち自身なのだ。』と、 だから僕は守る、彼女に頼まれたあの子と、この世界の運命を・・・・・・・・