黒の国〜影の森〜

誰しもハッピーエンドな訳は無いのだから。バッドエンドはすぐ其処まで来ている。

長編オリソニ小説 〜永久の月光花〜No.10 2/2

第二十七章〜恩師と王子〜

 

 

どうしよう、さっき道ばたで起きていたごたごたのお陰で、足止めを喰らってしまった。それに、民衆が逃げる時に腕を怪我してしまった。

「スパーク達、大丈夫かな。」

人混みが退いてから、その先では一人の女性が倒れていた。僕は、そんなのには目もくれず、スパークの言っていた辺りに行く事にした。

 

「うーん」

どうしてだろう。スパーク達は、「お城の近くに神殿がある」と言っていたけど、どこにもそれらしきものは見当たらないよ。

「其処で何をしている。」

そこで、見知らぬ男の人に声をかけられた。側には、もう一人、女の人がついている。

「「!!」」

二人は、僕を見て、驚いたような顔をした。僕はその二人の事を知っているはずも無いから。

「君は誰?」

そう答えた。

「まずは俺がした質問に答えろ。お前の質問はその後だ。」

すごく強情な、しかし、どこか懐かしいその声は、どこかで聞いた気がした。

カオスエメラルドの神殿を捜しているんだ。スパーク達が、先行っちゃって。僕、置いてかれちゃったんだ。」

そう言うと、更にその男の人は驚いたようで、目を見開いたが、それは一瞬の事で、また、無表情に戻ると、「俺も其処に用がある。」そう言い、ついて来い。と言った。僕を其処まで案内してくれるようだ。

 

どうやら、神殿は、部外者が入れないように、魔除けをしているらしい。だから、部外者と思われた僕は、神殿の入り口を見つける事はできなかったのだ。

「僕が質問に答えたから、貴方も、僕の質問に答えてくれますよね。」

そう言うと、その人は歩みを止めず見素っ気なく答えた。

「アイラス。そう名乗っておこうか。後の娘はソシア。」

「よろしくね。アイラスさん、ソシアさん」そう言うと彼は、照れたのかは分からないが、少し、歩みを早めた。

 

ソシアさんは「こちらこそ、よろしくねだって。ウォ・・あ・・アイラスが。」そう言って、また彼の後にぴったりとくっついて行った。

 

アイラスさんは、お城の裏まで廻って、地面の穴に入り込んで行った。ついていたソシアさんも、無言で入って行った。僕も入って行った。中はスロープで、そう長くはなかったものの、ついた時には、敷石に尻餅をついてお尻がいたかった。

ついた所は庭園のようだった。迷路のように垣根がたっていて、迷子になりそうだ。向こうには、白い建物がちょっとだけ見えた。

 

「嫌な気がする。闇共に入られたっ!!」

「急ぎましょう。ウォイスさん!!」

「シャオン、急げ!!スパークがやられるぞっ!」

「え・・・・。」

何で僕の名前を知っているんだろう。それにさっき、ウォイスって・・・。

そんな事が脳裏によぎったが、反射的に立ち上がって、二人の後を追いかけた。

 

 

 

二十八章〜現世に在らぬ者〜そのニ

 

 

すると、スパークの父が、態度を一変して、こう言い放った。

「どうしましょうか、紅月様、バレちゃいましたよ。」

「紅・・・紅月!?」

「ふん、お前の部下の調べが甘くてボロが出てしまったではないか。誰であろう。我が粗奴を片付けねばならぬ」

どうやら紅月は、スパークの母に寄生しているようだ。自分のミスを、部下であろうと思われるものになすり付けている。

 

「にしても、守護者のあんたが気がつかないって言うのはどうなんだ?」

「しゃーないやろ、二人の魔力はまるっきり隠れてったんだから。守護魔法も破られたんや。」

「畜生っ!!」

俺の隣をするりとステアが抜けて、紅月(自分の母親の肉体)に蹴りを入れた。しかし、その蹴りは、紅月に意図も容易く捕まれた。

「!」

「我の計画に逆らう不届き者共は、殲滅せねばならぬ!!『炎天悪呪』」

瞬間、つかまれていたステアの右足が瞬時に燃え上がった。

「うあああっ!!」

燃えたのはほんの三十秒程度だった。燃えたステアの右足には、黒い痣が、大きく広がっていた。そのまま足を突き放され、足をおさえてステアはそのまま地面にへたり込む。

 

「どのようなものでしょうか。紅月様使えますか、この体は・・・」

「問題は無い。ただ、こいつの魔力ではあまり大技は使えぬ。」

懐かしい母親の面影は消え失せ、自分の野望にだけ燃えている。その目は、青いどこまでも透き通っている母の瞳とは違っていて、まるで、鮮血のような赤い赤い、ワインレッドの瞳だった。

 

「お前もその姿は止めろ。我よりも良い肉体を持っているのだからな。」

 

「分かっておりますよ紅月様。確認しておきますけれども我々の目的は、祖奴が持っているカオスエメラルドと、ここに居る者共全員の命なのですからね。」

知っておる。紅月がそう答えたのをきっかけに、父親の体は地面に倒れた。そして、影からは見覚えのある。娘が出て来た。

そして、俺の方を見て深く礼をする。

「おひさしぶりね、スパーク。お母さんの様子はどう?あ、ごめんなさぁーい、もう死んでたわね。」

「あんた・・・。らいざ。」

「あら、覚えてたの?嬉しい限りね。まぁ、その記憶力はたたえてあげる。」

挑発的に俺を誘う赤い瞳は、幼かった時、父親を殺した目と同じ。

「ふざけんな・・・・・・。」

俺は、地面に思いっきり拳をついた。体中の力という力が一点に集まって行く。

「あら、何かする気?」

ふふふふ、またあの目だ。俺の父さんを見下したその目が、俺は嫌いだ。

昔のような中途半端な技じゃ、こいつには効かない。分かっている。

だから俺は更に力を一点に集める。

 

「スパーク、だめ!それは・・・・。」

 

サファリは俺に近寄って来る。下手したら死ぬのくらいは知っている。でもそれ以上に、昔の恨みが募っていた。

 

雷電来有流華伝!!」

この魔法は、お母さんが昔自分の能力を最大限に引き出す事ができると言って、この魔法を教えてくれた。昔は使えなかったけど、今なら使いこなせるはず。

バシュッっとスパークの周りの空気が一瞬にして覇気と化した。その勢いは凄まじく、寄って来たサファリはそれを諸に受け、吹き飛ばされた。

そのまま木にぶつかり、気を失う。

 

「それは、アファレイド王宮天候魔法のアーチメイジクラスの魔法!?なぜきさまがそれを」

低く姿勢を保ちながら、ライザは驚いた表情を見せた。

 

「小さい頃に母さんに教えてもらった。たった一つの俺が使える魔法だよっ!!」

瞬間、ライザに飛びかかる。スパークの拳は彼女の胸元に直撃し、空にバシュッと、稲妻が走って彼女に落ちる。 姿勢を低くして、スパークの覇気から耐えていたライザはその攻撃を諸に受けた。

 

「うあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

雷が直撃したライザは、その場に倒れ込んだ。スパークも、肩で大きく呼吸している。

 

「十年前の俺と見比べんなよ、バァーカ」

へへへ、とスパークは笑い、膝を折った。

 

「成る程、お前の母がその魔法を教えたのか?」

 

すばらしい。母の格好をした紅月が笑う。もうその姿は、昔見ていた母ではなかった

「この魔法は王宮秘伝術だ。高い魔力も必要となる。お前の力ごときでは一度で終わりだろう。くだらない戯言で駆け落ちした夫婦の息子ごときに負けるとは、情けない。」

彼女?いや、中の人物は男ではなかろうか、彼は靴を鳴らし、俺のすぐ側までよる。そのまま、俺の目の前まで迫り、頭に手の平を突きつけた。

 

「我は野望を邪魔する者共を潰さねばならない。その中の一人に、お前も載っている。あの間抜けな王の息子が捜していたウォイスもな。」

この名前に聞き覚えがあるだろう?

彼女は俺にささやいた。聞き覚えのある、あの母の声で

「知ってんのか、ウォイス。」

「知らない訳が無いであろう?彼奴は我の知る者ぞ。」

 

彼は笑う。不気味な笑みで、その突き刺すような冷たい瞳に俺は凍り付いた。いつの間にやら彼女の手の平には、小さな火の玉ができていた。それは次第に誇大化してゆく

「お前に雷技は効かぬからな、冥土の土産に教えてあげようか、選ばれし者よ」

シャオンの正体を・・・・。

「レヴィアイディア!!!」「スパーク、どいて!!」

急に金縛りのように硬直し、動かなかった体が横へ倒れた。瞬間、俺が居た辺りを、白い光が通過し、紅月の手の中にある炎とぶつかり合い、火花を散らす。反動で腕の中からカオスエメラルドがすり抜けて、地面へ落下した。

気がついてシャオンがあわてて拾う。

 

「無茶し過ぎだよスパーク。置いてくくらいなら連れてってよ。僕もお菓子食べたかったのに!」

「シャ・・・オン?」

目が霞んで良く見えない。其処にはいつも通りの彼奴が居て

「早ようシャオンはん、こっちや。」

ミルフィーユの声が聞こえて、そこで、意識は途絶えた。

 

 

「後の二人もはよう運んでください。」

「分かってるよ!」

神殿の影になる所、紅月達からは死角になる所へスパークを運んで、残りのサファリとステアを運んだ。三人とも意識は無くって、ほとんど僕が負ぶって運んだ。

「重体ですね。」「せやな」

先刻、紅月に魔法で片足を負傷したステアの足を撫で、ソシアは言った。

「どういう事?」

「この魔法は解くのも難しいんです。それに、この魔法は、ほんの少しでも魔法が当たれば、それと一緒に呪いが罹る・・・んです。それで、放置しておけば体を蝕んでゆき,早くて二日、遅くて一週間で死ぬと言われてます。あの人なら治せない事は無いですがね。 あ、女の子の方は大丈夫です、たいした怪我はしてませんから。」

確かにステアは、先ほどは膝までしかなかったはずの浅黒い痣が、太ももまで上って来ていた。

ソシアさんの見立てによれば、ステアは重体、サファリは軽傷、スパークは僕が引き倒した際に腕を軽くねんざしただろう。と言われた。

 

〜〜〜〜

 

 

「何故、お前がここにいるのだ!!」

ウォイス・・・・アイラス

ウォイスの魔法を振り払い、深く息を吸う。やはりこの女の体では、魔力が足りない。仕方の無い事ではあるが、このままではまた封じられる事は確かである。

 

我の邪魔をするものは全て殺さねばならない。後少しでメインの選ばれし者を殺せた。後から、我が最も要注意している人物からの不意の攻撃により、気を逸らした隙に、いつの間にきたのだろうか・・・・・。

分からない見覚えのある少年が、選ばれし者を回収した。

「紅月様の・・・・邪魔はさせぬ!!」

真横を、負傷したままのライザが駆け抜けてゆく。

 

「何が邪魔だ。お前らのくだらない計画の方が、よっぽどこの世界にとっては不都合な事だ。」

 

「ぬかせっ!!悪魔の王サタン ベルゼブブよ 汝(なんじ)我の意を持つ魔に属し者 我の血肉をささげ仕えし者 ここに集えっ!!」

 

この魔法は召還魔法である。彼女はこのたぐいの魔法が得意である。

ライザが唱え終わると同時に、彼女の足元に魔方陣が発生し、無数の黒い者共が集まり始めた。

「スプリフォ!」

 

その瞬間を狙ってか、ウォイスが呪文を唱える。瞬時に白い波動が広がる。

実態と化した黒い魔属の者共は、白い波動に当たった瞬間に紙のように散り散りになって消滅した。

 

スプリフォは召還された魔界生物との契約を取り消しにできる魔法。しかし、この魔法はかなり高度な魔法のため、素人が出せるような安易なものではない。

 

「!?」

「闇魔法に対しては堪能なようだな。だがそれと対等である光魔法は学んでいなかったようだな。甘い。リディス!」

闇魔術と対等に戦えるのは光魔術しかない。つまり、闇魔法の効力を無効にする魔法を光魔法は持ち備えているのである。

リディスは、スプリフォを受けたものに対して魔法を発動すると、効果が二倍になる。

 

「レファル!」

紅月が叫んだ。瞬間、紅月が倒れ込む。

 

「ふむ、やはりこっちの方が良かろう。あの体は動きやすいが、魔力は足りぬ。」

瞬間ライザの態度が一転し、ウォイスを見て薄く笑う。

「仕方ない。今日は諦めてやろう。これ以上弟子の体を酷使する訳にも行かぬ。」

「転身術・・」

「あの体は好きにしろ。動き辛い。」

「ふざけるな!」

ウォイスは手の平に光の玉を作る。それを投げようとしたタイミングでその手を押さえつけられた。

 

「やめて・・・・。」

その声に気を逸らした隙に紅月は瞬間移動で逃げてしまった。

声を掛けた奴は、曇りの無い青い瞳。

 

「君が、ウォイスなんでしょ・・・?」

 

そう問う少年の問いに俺は、答える事ができなかった。

 

 

 

 

 

 

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あとがき

 

 

やっと記念すべき十話ですな(笑)

小説を書き始めたのは六月中頃ですが、本編は四月から描き始めたので、ある意味一年程経ちます。

同時進行で過去編の小説を描いてくださってるporuさんや、オリソニを貸してくださった大勢の協力者樣方にはとても感謝してます。

もちろん、この小説を読んでくださっている皆様もそうですが。

ほんわかしてる小説が書けるようになりたいですね(笑)

まだまだ未熟者なので、なかなか上手くかけていない所も多々あるとは思いますが、今まで飽きずに読んでくださった皆様、これからもどうかよろしくお願いします。

 

 

終わります。

一人は言う、「戦いなど虚しいだけ』 一人は言う、「僕を一人にしないで』 一人は言う、「人それぞれで良いのだ』 一人は言う、「片方を守る者、もう片方を失う」 四人は言う、「この物語を作るのは自分たち自身なのだ。』と、 だから僕は守る、彼女に頼まれたあの子と、この世界の運命を・・・・・・・・