黒の国〜影の森〜

誰しもハッピーエンドな訳は無いのだから。バッドエンドはすぐ其処まで来ている。

オリソニ小説〜永久の月光花No.15 1/2

 

第三十五章〜昼餉〜ヒルゲ

 

 

此処は涼しいし空気がきれいだ。僕は改めてそう思った。眠気覚ましを兼ねての朝の散歩は気持ちよくって、僕は更にこの廃都を散策した。

 あの家からはずいぶん離れてすっかり元の大通りに戻った。井戸を見つけたら急に喉が渇いた。そういえばここに来てから一口も水を飲んでなかったっけ。僕はその井戸に歩み寄ってかなり傷んだロープを引っ張り上げた。

「・・・この様子だと水はあまり汚れていないし大丈夫かな。」

 

手袋を外して水をすくってそのまま少しずつ飲み干す。正直水は、あまり美味しくはなかった。やっぱりやめておいた方がよかったかもしれない

そんな事を考えながら歩いていたらいつの間にか廃都の外にたどり着いた。僕達が入ってきた所とは反対の方のようだった。

「お腹空いたなぁ・・・・そういえばスパーク達どうしたかな」

すっかり忘れていた事を思い出してお腹が鳴った。

「ん!ひふは?」

「え、ありがとう。・・・・・あれ、ステアどうしたの?」

差し出された甘い香りのする食べ物を手に持って、顔を上げたらステアだった。彼はまだ片手に五、六個の食べ物を抱えていた。

「ひゃっひふぁんたふぉみふふぇてふぉいふぁふぇふぇふぃた」

「ちゃんと飲み込んでから喋ってよ。」

「・・・っとな、さっきあんたを見かけて追いかけてきたんだ」

これでいい?とまた口に食べ物を放り込む。

 

「君はきのう僕達の所をいきなり離れてなにしてたの?」

「ん、黄桃のいい匂いに吊られて一晩中歩き回ってたんだ。つい数分前にあんたと別れた所まで戻ったんだけど誰も居ないだろ?仕方ないから周辺歩いてたらアンタを見つけたって訳。」

今度はちゃんと食べ物を飲み込んでから話した。

「で、ここはどこだ?」

「あれ、知らないで歩いてたの?此処は廃都だよ。よく分からないけど。」

 

「なぁ、ところでアンタの持ってる本って何だ?」

ステアは僕の持っていた一冊の本に目を留めて言った。

「よく分かんないんだけど持って行きたくなってさぁ、暇つぶしになるし。」

「何の本なんだ?」

くるくるくるっとステアは食べ物を回して皮をむかずに一口で食べた。

「それが表紙だけ虫食いにあってて読めないんだよ」

「ふーん」

 

「暇つぶし・・・ねぇ」

 

「誰?」

木の上から声が聞こえた。そこを見ると尻尾が見えた

「人様に名を問うなら先に名乗るべきはお前じゃねえのかぁ?」

「まあ、俺は名乗る気はねえけどな。」ニイッと笑った奴は、猫だった。

 

 

 

 

 

 

 

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「本日はこの森で魂癒着術の練習をしてもらうぞ。」

森の前で声を張って生徒に聞こえるように言う。初めての屋外授業という事で浮かれているようだ。

まさか初等部でこの授業をするとは思ってなかったが、今日が初授業なんです。頑張らなくては

「・・・絶対に認めてもらわなくては」

女だからって見くびらないでほしいんですよ。普通女性教師は回復術や薬調合の方で使われる事が多い。だからこの科で授業をする時には多いに反対された。

目の前にいる生徒達は未だざわついていて、落ち着かない。

 

「ところで先生。魂癒着術って何ですか?」

生徒の一人が質問した。

「ふふん、その質問を待ってましたよ。えぇーっとですね、魂癒着術とは・・・「すみません遅れましたっ!」

クラスの視線が一斉にその子に集まる。

「あら。」

息を弾ませて真新しそうな教科書を抱えてた丸眼鏡その子は見た事の無い子だった。

「理由はなんだい?」

「あ、えぇっとですね。め・・・・・眼鏡を自宅に忘れまして。」

眼鏡が無いと文字が読めないんです。そう言って彼には大きい気がする丸眼鏡を押し上げた。

頻(しき)りにごめんなさいを連呼する少年。

クラスの者だとしてはおどおどしている。

「まあ良いや、そこに座りなさいな。」

「はぃ・・・・・」

消え入りそうな声で返事をして質問をした女の子の近くに腰を下ろした。

 

「では改めて、魂癒着術についてです。教科書P36です。」

パラパラとめくるページの音と、本を読みはじめる子供達

「はいはい!私に注目!教科書にはしおりを挟んでいること!ほら丸眼鏡くん、読むのをやめてください」

「ほら、先生お話ししてるよ。」そう言ってほかの子が眼鏡を弄ると気がついたみたいでしおりを挟んだ。ごめんなさい付で

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魂癒着術

その名の通り術者の魂、意思のかけらを他人に癒着させ、幻覚を見せる魔法である。ただ、普通の幻術とは違い、術者が解かない限り一生続く。

更に、普通の幻術はあり得ない幻覚を見せる事が多いですが、この魔法は術者が今体験している事を疑似体験させるようなものです。 具体的に言うならテレビの生中継のようなものです。 

 術者の見たもの、聞いたもの嗅いだもの、感覚が全てその者にも伝わります。更に、長期間使用していると、相手は術者自身を自分だと思うようになります。

逆に、相手のやっているものに全て干渉する事も出来ます。ですが、あまりにリアルな感覚のため、逆に干渉した相手自体が自身だと思い込んでしまう馬鹿が時々居ます。そこは気をつけてほしい。

その間かけられた者は何もする事が出来ず、感覚や意識諸共術者に飲み込まれているため結果的に餓死するというわけです。

助かったとしても、長期に渡って術にかかっていた者は術者を自分だと思っている事も多く、多くが命を落とします。

 

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「まぁ、あまり気を負わずに、自分がかかっているという自覚さえ持っていれば大丈夫だ。」

「という事はターゲットは僕ら皆でやり合うわけではないんですね?」

「勿論。術をかけるのはこの森に住む生き物達にだ。ただし、間違ってもこの森の植物にはかけるな!あと、その様子を観察し終えたらすぐに術を解きなさい。いいですか?」

「はい!」

「では解散っ!」

すると散り散りに生徒達は散って行った。あの眼鏡っ子も本を歩き読みしながら森の中に入っていった。心配である。すると不意に服の袖を引っ張られた

 

振り向いたが姿は見当たらず、目線の斜め下に生徒の顔があった。

「先生、彼奴授業初めてなんだ。」

「ん?」

「さっきの眼鏡。」

「ああ、あの子見かけない顔だったよね」

 その生徒の話によるとあの眼鏡っ子は春先に病で休学してたらしい。

だからみんなの中でもどこか浮いていたのかもしれない。

「とりあえず、私は見回りしないとね。」

私も生徒達のあとを追って、森の奥へと入っていった

 

 

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登校用に春先に買ってもらったブーツ、制服は裾が長くて小柄な自分には凄く大きかった。それに加えてその日が屋外授業の日だなんて知らなかったわけで、底が厚く、履き慣れていない靴は本当に・・・

「・・・歩き辛い。」

そう言って僕は3度目のため息をついた。

 

新学期の夕方に発作で倒れた僕は、何の病かも聞かされないまま、半年以上、家から一歩も出る事は無かった。 母はただ、「体調が悪い。」とだけしか教えてくれず、ぼくはずっと、原因不明の強い劣等感に襲われてた。

でも二週間前に登校許可が下りたらしく、登校できる事になった。でもそれを知ったのは一昨日で、昨日は一日中今日のためのしたくにおわれていた。

今日、学校にいくのは不安でしょうがなかった。事実、片目乱視、もう片方が遠視の自分が眼鏡を忘れているのに校門の前まできて、気がついた。

取りに戻ってそのまま休みたかったのを我慢して登校したら教室には誰も居ない。特別教室はみんな別の学年が使っており、仕方なく職員室へ足を運んだ。そしたら屋外授業で、リ―ヤ先生という先生が担当しているらしい。

そして、案の定授業に遅刻し、クラスのみんなの前でいきなり失態をしてしまい、今に至る。

 

「読んでもよく分からないじゃないか。」

そう言って、どすんと木の根元に座り込んだ。

僕が得意なのは魔法薬学。この授業、分野でもある魔法陣は一番嫌いなもので、自分にはさっぱり分からない。

第一地面に図形を書き記す事自体がよく分からない。以前そう母に言ったら笑われた。

「あ。」

もしかしたら詠唱で呪文に変換できるかもしれない。

魔法陣の元は数式や言葉も多い。前に本で呪文を魔法陣に変えるというのをしていた人がいた。逆も出来るのではないか。そう思った。

「ヘル・フェーデ・ドゥーシャ・・・かなぁ」

魔法陣にはそう描いてあるような気がする。

「やめといた方がいいぞ。丸眼鏡君。見習いの君が魔法陣を書き起こすなどと言う高度な魔法を使ってはいけないですよ。」

上から覗き込んでいたのはリーヤ先生だった。僕は驚きのあまり勢いよく顔を上げ、後頭部を幹にぶつけた。

「はいぃった!?」

「魔法陣の描き方くらい私が一から教えてあげるから。ほらノートをだす!」

「にしても先生、いきなり声をかけるという行為はおやめになられた方がよろしいと思いますよ。」

「さっさと出す!」

この後まさか、大事件が起きるなどと僕と先生は思う筈も無かった。

まさか物語の世界じゃあ無いのですから。

 

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「先に名乗るのはそっちからじゃねえのか?スプレー塗りたくったタワシみてえな頭しやがって」

そいつは赤毛で足元は裸足、サイドに垂らされた毛は丁寧に金のバングルで止めてあった。

 

「君こそいきなり声をかけるのはどうかと思うよ?」

「はんっ、笑わせるね、綺麗事ばっかり抜かしやがって」

そう言い脇で立ち尽くしてたステアの持っていた食べ物を一つ奪う

「おまえっ!何すんだよ」

「おぉっと。いきなり殴るなよ、食べもんの一つや二つ、いいだろ?」

そう言うとそいつは一口齧り、笑う。

「てめぇ・・・」

ステアの拳に力が入る

「そうかっかすんなよ、この辺はいつ来ても食べ物がうまいよなぁ・・・だろ?」

そう言って種を吐き出す。

 

「もう一度聞くよ、君は誰なんだい?紅月の手下なのかい?」

「手下ねぇ・・・俺様は違うと思うぜ」

「思う?それは一体どういうこと?」

「俺様は誰の下にもつかねぇ、紅月とやらの下にもだ。ま、楽しいことなら話は別だぜ?」

そう言い笑う奴は満面の笑みを浮かべていた。

「別・・ね。君の名前は?」

「俺様はアスラ、これから此処で楽しいショーが幕を開けるってよ」

「そんな情報何処から」

「ある組織に協力した御礼に教えてくれたんだよ。そこの奴がな。『これから復讐をしてやる』ってさ」

 

「復讐・・・・・・!・・・スパーク!」

「何だ!?スパークがどうしたって?」

「ああん?」

大声を出した僕を怪訝そうにアスラは睨み、ステアは警戒を解いた。

あぁ、どうしよう。まだ廃都の中にはスパーク達が居る。アスラが協力したという組織のターゲットが僕達だったとしたら紛れもなく紅月だ。

 

 

「フォールミラージュ!!(滅びの蜃気楼)」

 

 

突如静寂に轟いた言葉は暗雲と強風を伴いながら教会上空から徐々に徐々に周囲を巻き込み、最終的には大きなドーム型の何かが廃都全体を覆った。

僕達はギリギリドームの外側に居た。

「・・・・どう言うこと・・!?」

「へぇ〜、闇魔法だな。そういや彼奴得意だっていってたもんなぁ。楽しみだ」

僕達が状況を処理しきれていないうちにアスラは木の上に上がって行った。

 

「お、おい。どういうことだ??」

「ステア、このドームの中にはスパークが、スパーク達が居るんだ。」

「へ!?」

動揺して上手く言葉が紡げなかった。まさかこんな所で奇襲に遭うとは思いもしなかったから。

「油断してたよ」

しっかりしないと

「んだとおい、冗談じゃないよな!?くそっ、この壁弾かれる」

ステアはドームに体当たりする。

 

「残念だがこの魔法は外部からの攻撃は一切受け付けない。おまけに防音効果も果たしていて、外部からの情報は一切遮断されている。お前達は目の前で仲間が死ぬのを眺めているんだな」

「・・・テノール??」

僕達が天使島に言った時にズタボロにしてやった奴に似ている。

「ハズレ。俺はロアール、テノールの兄だ。」

そう言うと煙草を取り出しふかす。

「弟と後輩の借りを返しにきた。楽しいショーの開幕だ。リベレイション!」

すると少しずつドームが縮んで行く。そしてそこにあった建物は消えていた。

「どうだ、最高だろ?このドームが縮み外側に出ると最後は皆、塵と化す。楽しいショーだろ?」

 

このままお前達の前で選ばれし者諸共塵にしてやる

 

そう言うと浮遊して、教会がある辺り。丁度ドームの中心に立ち、術を唱え始めた。

「ハハハ・・」

全く、笑えない冗談だよ。まずは状況を整理しなくちゃ・・・

ドームは少しずつ小さくなってゆく、ドームが縮まる時、内側のモノは塵と化す。外側からドームを壊すことは叶わず防音、外からの情報は一切貰えない。

 

 

 

これって・・・・最悪じゃないかな?

 

一人は言う、「戦いなど虚しいだけ』 一人は言う、「僕を一人にしないで』 一人は言う、「人それぞれで良いのだ』 一人は言う、「片方を守る者、もう片方を失う」 四人は言う、「この物語を作るのは自分たち自身なのだ。』と、 だから僕は守る、彼女に頼まれたあの子と、この世界の運命を・・・・・・・・