Library social withdrawal 後半ノ巻
三の書
「なんなのですか、貴方は。」
図書館からの帰り道、その人物は目の前に現れました。
「あれぇ~忘れちゃったの?僕ですよ僕。」
異様なまでの殺気と血に染まったかのような赤髪、足元から伸びる影が異様なまでに長かった。彼が一歩歩くたびに私は一歩引き下がる。聞きたくは無かった。否、聞いてはいけなかった。その声を、その容姿を私を先生と呼ぶその声を・・・・
「僕ですよ・・・?忘れる分けないよね。だって貴方の記憶に痛い程刻みついているはずだよね、その名はぁ・・・」
「ラヌメットさんですか・・・・。」
はいと返ってこない事を願っていた。
「そうだ。」
嗚呼なんて最悪な日でしょう。先ほど注意を受けたばかりですのに、本人に会ってしまうだなんて、こんな事でしたらウォイスさんについていくのでしたよ全く。
「正確に言えば僕は、もうラヌメットじゃない。そんな名は王を殺した際に捨てました。」
ケケッと不気味に笑う。私でも危ないと危惧しました。
「手始めにね、人を殺したんだよ。ここを出てから周辺の小さな村各地で二・・三人さ。そして、犯人がこの中にいるように彼奴らに思わせてさ、殺し合いをさせたのさ。一つの村はみんな死んだ。二つ目の村は大人が皆死んだ。じき子供も死にましょう。三つ目の村は幻影に溺れて死んだ。馬鹿だよ全く、皆さぁww揃って同じ事をするんだもん。これじゃあ実験してもしてないような物じゃんか」
先生もそう思うでしょ?そう言い不気味に微笑む彼は私の知ってる彼ではなかった。
「そうは思いません。彼等は貴方の実験に協力したいと言ったわけではないのであれば、私はそうだとは思いません。」
その瞬間彼の目が変わりました。失望の色に、同胞を失ったかのように。私は続けます。
「それはただの人殺しです。そのような汚らしい事は嫌いです。」
「何故です・・・。僕にあんなにも言ってた癖にぃ・・・・・」
彼の瞳がギラッと光る。ゆるさない。そう口が動いたのを見ると、いきなり飛びかかってきました。
「ルフィアインビナード!!!」
すると私の方に振り上げられた右手に炎ををまとった剣が現れました。私はとっさに転んで避けました。上の方で炎の熱気と嫌いな刃物が見えました。
「挨拶もなしに攻撃とは・・・私が教えた方法じゃないですね。とても無礼ですよ。」そう言って彼の足を払う。
バランスを失い彼はそのまま近くの八百屋さんに突っ込む。辺りには人集りができていて、動き辛くなってきました。
「皆さん!この方が王様を殺められた張本人です!どうか下がってください!危険です!!」
どなたか王宮に届け出てください!私がこいつを食い止めておきますから!私は叫びました。彼が起き上がり、反撃を開始する前にこの事を伝えなくてはと・・・・
「ふざけんなよこの眼鏡がぁ!」
起き上がって再び剣を片手にこちらに向かってきます。
「剣の重心が、ぶれていますね。もしや剣を使うのは初めてでしょうか。王を殺したように、簡単に私を殺めてしまえばよろしいのに。サザンウォール!」
私は彼に向けて水の魔法をかける。彼は水に飲み込まれ、剣は使用不可能になり、水に飲み込まれて消えていった。
「~!!!!」
**************
「!?場所は!」
王宮に駆け込み俺に面会を求めた少女は兵士に止められていた。俺が離せと言った所。眼鏡をかけたお兄さんが殺人犯と戦っている。と言った。
「大通り!図書館近くの八百屋さんの側!」
「くそっ!」
俺は王子の子守りを放棄して、王宮の外に駆け出した。
彼奴が保てばいいが・・・・
**************
先ほどまで私の方が優勢でしたが、全くもって反対になってしまいました。
これを形勢逆転というのですよね・・・。現在地は大通り脇、花壇の土の上、時期的に向日葵が咲いている畑の上に頭から突っ込み、顔を上げた所です。目の前を呑気に芋虫がのそのそと歩いております。いいですね。
・・・呑気な事を言っている場合ではありませんね。
「全く今日は散々です。」
図書館で忠告を受けたのにもかかわらず帰りに出会うとは、こんな街中で戦ってしまって、周辺には先ほどとはうってかわって人っ子一人見当たりません。
「 戦いは嫌いなのですがね。」
病院でつけていただいた包帯は真っ赤に染まってしまいました。
それに、あちこちに傷があります。嗚呼また病院にお世話になる羽目になります。それに、また眼鏡を破損されるだなんて。今回はレンズにヒビが入る程度で良かったですが、あの方がいっぱい映ってどれがどれだか分かりませんよ。
「私の眼鏡代くらいは弁償していただきたい物ですよ。」
「貴方は何処までも保身的な方ですねぇw」
「元からですよ。」
ふらりと立ち上がった私の首元に剣が押し付けられる。
「いいよいいよその顔。僕はその顔が好きだ。相手を精神をおいつめておいつめて、先がないと悟ったその顔がぁ」
先ほどの様子とは違って、何かがキレたかのように不気味に笑う彼は、私の知っている方ではありませんでした。別人。
「先生も往生際が悪いよ。さっさと死ねばいいのにさぁ。痛い思いしなくて済むんだよ?死ねばいいじゃんか、さっさと。」
そう言いギリギリと剣を私の左肩に押し付ける。体の肉が切れる痛みとそこから流れ落ちる赤黒いモノの香りが混ざって、嗅覚から、聴覚から侵入してくる。
「あぁ・・・・・ああぁ・・・・・」
「このままだと僕は先生の両手足を切り落としちゃうよ?」
ぼたぼた・・・と嫌な音を立てて血が落ちる。石畳の掃除が大変そうですよ全く。
「お・・・・・・落としたければ落とせばいいですよ。そ・・・そんな事であまっちょろい子どもになど怯えてては仕方がないのですよ。どうぞ落としてください。」
そう言い自ら剣に食い込ませる。再び肉が切れる嫌な音がしましたが気にはしません。すると、彼の顔から笑顔が消える。
「死ねぇぇぇ!!」
振り上げられた剣は私の頭を捉え、まっすぐに振り下ろされました。
「だからそれが甘いというのですよ!リヴェルス!」
「ああああああああああああああああああああああああああああああ!」
そのままの形で彼は固まる。否、動けないのです。しびれて。
その隙に私は彼から離れました。数分間は大丈夫でしょう・・・かね。
「少々遣り過ぎましたよ全く。さすがにこれだけの血液を失ってはまともに走れませんね。」
流石に息が荒いですよ。また過呼吸にでもなったら大変ですね。
私がいた所には赤黒い跡が残っており、点々と、私がいる所まで追っていた。初めて試した魔法だったのですが、案外効きましたね・・・驚きですよ。
服はクリーニングで落ちるような血の量ではありませんね仕方がありませんね、捨てましょうか。結構気に入っていたのですが。
「ノヴァ!」
すっかり人気のなくなった図書館街の王宮の方から走ってくる人影が見えました。
「・・・・・ウォイスさん。」
初めて彼に名前で呼ばれた気がしました。『馬鹿ですね、走るくらいならテレポートでも使えば良かったでしょうに。』・・・言いたかったのですが、声は出ませんでした。
「やっときましたか・・・ありがとうございます。どうせならもっと早く来てくださいよ。」
「無茶言うな。「ここから王宮までの距離はどれくらいだと思ってるんだ。走ってもかなり時間かかるんだぞ。テレポートを使おうにも位置がよく分からなくてな。図書館の周りの八百屋なんぞ、いくつでもある。」
ウォイスさんはそう言いながら息を整え、私に肩を貸す。
全て廻ってここが最後だったそうです。なんて運の悪い。今日は本当に運が悪い日ですよ。
「彼奴は・・・」
あそこです・・・・。指を指した先にはいまだ固まっている彼がいました。
「ラヌメット!」
「んあぁあああああああああ!」
ガキン、と石畳にヒビが入る音がすると同時にウォイスは叫んだ。
「溶けましたかね・・・魔法」
すると彼は、ゆっくり振り向きました。その目は殺気を帯びていて、ギラギラと光っていました。
「生に執着するのか、僕は・・・我・・・知りたい・・・」
一瞬ノイズが走るかのような機会音が混じり、微かに声色が変わった気がした。本格的にヤバいかもしれない・・・彼奴の精神に毒が適応してきたという事か。つまりだ、先ほどよりも強くなるという事だ。
「ヤバいな・・・」
「何がですか。」
元同僚をこのような姿にしたのだ。余談は許せない。ただ一つ分かる事は、彼と彼奴が争った時はほぼ互角だったこと。ただ、後半の方に行くに連れて彼の体力が切れ始めた。もともと体力がなかった。時が経つと同時に毒が適合していき肉体の魔力を操れるようになった。だから彼奴の魔力は強まった。そして今のような形になった。と、俺は状況を推測した。
「お前、何したか分かっているのか・・・」
え、何の事?そう言い邪気のないいつも通りの笑顔で笑う。それがかえって恐ろしかった。
「今日はこれくらいにしようよ。今日は貴方の怯える顔が見れた事だし。痛み分けだ。」
そう言い笑う。彼奴も見れば彼よりはましであるが、かなりの怪我を負っていた。
「貴様!・・・「貴方は私の知っているラヌメットさんじゃありませんね。名前はなんと言われるのですか?聞かせてください。」
はじめから分かっていましたよ。彼はそう言って私から離れようとしてバランスを崩ししゃがみ込む。反動からか、血が数滴足元に落ちた。俺が腕を持とうとしたら傷口が開くのでいいですと振り払われた。
「紅月・・・じゃあね。」
そう言って彼はどこかに消えた。追いかける事も可能だったが、ノヴァがこの状態では無理だと判断したため、俺は一旦彼を病院へ運ぶ事にした。本人はいいです。と何度も断ったが。そんな状態で病院まで一人で行けるのかと聞いたら素直に従った。こいつにしては珍しいなと思った。
四の書
「全くもって、今日は最悪な日ですよ。」
「動くな、うまく包帯が巻けないだろうが」
結局ウォイスさんによって病院に担ぎ込まれた私は、肩を十針も縫う事になり、しばらくの間は入院する事になりました。どちらにしろ、このような状態ではまともに暮らす事はできないので良いのですがね。
丁度同行していただいたウォイスさんに包帯の巻き直していただいている所です。
「痛いです。もう少しゆるく撒いてください・・・・貧血ですよ?」
「だから悪かったと言っているだろうが、少しは口を噤んでろ。」
「すみませんね。ところで、王子さまは放っておいて大丈夫なのですか。」
「大丈夫だ。今頃使用人が寝かしつけている頃だろう。」
そう言い包帯を絞る
「だからいたいです。力加減はできませんか。」
「できない。そろそろ俺は帰る。」
彼はそう言い、残った包帯を持って出口の方へ歩いていきます。そんなキッパリ言わなくていいと思います。
「そうですか。ところで貴方の着ていた服は・・・」
「血が落ちなかったから捨てる事にした。あと・・・・・・・すまなかったな。」
戸口に手をかけて呟きました。
「何がですか。」
「ラヌメットの件、俺がもっと早く気づいて止めるべきだった。そうすればお前もこんな事にならなくて済んだろう。」
「過ぎた事はもう良いのです。こんな事になったのは、私が相手した事も原因の一つなのですから。」
「・・・・・悪かったな。」
そう言うと彼は病室を出て行きました。
私は割れたレンズ越しに最後の彼の姿を見たのでした。
「眼鏡はまた購入し直しですね。・・・・ありがとうございました。」
私は彼のいなくなった病室で一言呟きました。本人に向かって言えれば一番良かったのですがね。
それ以降、私は彼とは会っていません。
職場復帰した日に自宅に再び花が届きました。送り主は見なくても分かりました。前回と同じ包装で、同じく細かい文字で書かれた文字と、同じ種類の花が贈られてきたからです。
一つ違った事と言えば、中に『よくなってね。』と一言、読めなくもない文字で書かれた手紙が入っていた事くらいです。名前は読めませんでしたがね。
久しぶりに図書館へ向かいました。その途中で彼とすれ違いました。傍らにはあの子も一緒です。二人とも深くフードをかぶっていて・・・
嗚呼、分かりましたよウォイスさん。
そうですか、出掛けるのですね。遠い遠い所へ。
いってらっしゃい。
そう呟いた一言は、空の彼方へと消えました。
守るのなら、最後まで守り抜いてくださいね。
これが私の望みです。
その数年後、総合科にいた一人の教師が行方知れずになるという事件が起こった。
その教師の名は 『ノヴァ・リヴェル』
これが私の記憶。
END.