Library social withdrawal 前半ノ巻
一の書
「では!」
その一言で、講堂が静まる。私の事をよく理解してるから取られる行動でしょう。私は長く伸びサイドの毛を搔き上げて、全てを見渡す。
「これより、総合科6時間目の授業を始めます!本日の議題は属性の効力と使い分け。では資料の65ページを開いてください。」
そう言うと、ページを捲る音が辺りに響く。この音が大好きです。この間に私は、今日の台を書き上げてゆきます。最も、魔法を使えば早いのですが、自分で書くのが好きなので、そうさせてもらってるだけなのです。話してるときは使用させていただきますが。
これでも一時期『Library social withdrawal 』別名図書館虫と揶揄されたものですが、復帰してからというもの、何故か怖がられているようです。
私が新学期に教師として教卓に立つという事を発表したときも、教務室内がどよめきました。それを新学期の朝会に発表した時は「レア物が俺らの授業の先生だってよ!」だとか、「私外れちゃった。」なんて聞こえましたがね。
いざ授業を受けた一週間後には生徒達の態度が一変、手の平を返すかのように恐れられるようになりました。
何となく想像がつくのですがね。
それは初日の授業の事。私が授業をしてるのに、一人の生徒は悠長に昼寝をしているのです。勿論の事ながら叱りました。彼は常習犯だったようで、他の教諭達にも要注意人物としてみられていました。
そんな彼だったので私は罰則として、一学期前半にある全部でニ十五回の私の授業レポートを翌日に提出するように命じました。もちろん、三枚以上紙を使うこと。読める字で。「多すぎだ」とか言われましたが、それが彼の犯した罪への償いだと言い聞かせました。
それからというもの彼は、私の授業で居眠りをしなくなりました。
他の所ではするようですが、それでもあまりしなくなりました。何故なら他の教諭達も揃って私と同じ罰則をかそうとするからです。
そのため彼は、身の危険を察知してか、罰則が怖いからか、やらなくなりました。
そんなこんなで私は、この学校で一番罰則が厳しい先生である事で名前が知られました。
「まず、属性の話は、中等部の頃にさらっと一度学習したかと思いますが、今回はその続きです。また、この属性は、どの術の中にも含まれています。」
そう言い、簡単な効果関係図を描く
「まず基本となるのが赤青黄の三属性です。そこから細かな続種に別れていきます。まず赤ですが、赤は揺らめく炎をまず想像すると思います。赤は士気を挙げたりするのに効果的な色と言われています。生物の気力を上げたりするのに使えます。 青は水や氷などを想像すると思います。青は、我々を落ち着かせるのに効果的な色です。この魔法を使い、生物の興奮状態を抑えたりするのに使えます。そして黄は、大地や雷などを想像すると思います。黄は赤や青とは違い、突飛した効能というものがありません。何故なら、その効能は、これから我々が作り上げる事になるからです。」
辺りがどよめく、私は一度前を向き、再び黒板の方へもをもどす。
「この基本属性を使い、魔法を作り上げてゆきます。それは知っていますよね。これらの属性を組み合わせる事で、巨大な火の玉を作ったり、雨を降らせたり、地震を起こしたり、植物の成長を促進させる魔法を生み出す事ができます。」
つまり、魔法はオリジナル、自身で造り出せるんです。
「下手したら、人を殺められる程の威力を持つ魔法も造り出す事ができます。では、一度例を御見せ致しましょう。」
そう言うと、ポケットに入れていた昨日の夕食に使用した残りの豆を放り投げる。
「時間促進魔法(タイムヴィント)」
すると豆は見る間に子葉をだし、花が咲き、実ができて、種がおちる。そしてそれを繰り返す。落ちた種から芽が出てまた落ちて、見る間に講堂の半分が豆の苗で埋まる。
そして、生徒が動揺し、講堂が賑やかになる。
「ディスパー」
そう言い指を鳴らせば、見る間に植物は成長を止め、瞬時に枯れて消えた。
「これが成長促進魔法です。これは、植物の生長を通常の百倍程の早さで成長させ、その植物を繁栄させる事ができます。また、植物の成長を止める魔法を唱えるまでは永久に繁栄し続けます。つまり、解除の方法を知らなければ今程講堂を埋め尽くした植物達は、そのまま国をおおい尽くしていました。」
「このようにして、いくつかの属性を組み合わせる事で、生物に害を与えたり、回復させたり、色々な事が可能なのです。また、その他属性として、光と闇の魔法の属性があります。この二つは支え合い、互いを打ち消し合います。このバランスが崩れる事で、闇の魔法使いへ進む事もあり得るのです。」
この属性は取り扱いが難しいのです。悪夢を見せたり、殺したり。闇魔法だけでもかなり凶悪な魔法が作り上げられるのです。
だから魔法は奥深くて、恐ろしい。
「また、赤の属性は青の属性に破れますが、青の属性は、黄の属性に破れます。黄の属性は赤の属性に破れます。それらを覆すものが、いくつかの属性を組み合わせた魔法です。例えば先ほどの魔法。植物が育つには適温、水分養分が必要なのです。それらを高濃度で配合し、なおかつ丁度いいバランスで作成できた時にこの魔法は完成するのです。つまり、この魔法には三色全てのバランスで作成されています。 この魔法の弱点は、この丁度いいバランスを崩せば成長は止まるのです。赤が強ければ青が足りずに枯れる。青が強ければ根が腐って枯れる。木が足りなければ栄養不足で実がならず、枯れる。」
全てを計算し尽くして魔法を作らねばいけないのです。術者が解く魔法を考えておかなければ解く方法は不明のまま、先ほどのように永遠に繁栄し続ける事になるかもしれないのです。
「因に、私が先ほど使用した魔法は、私オリジナルです。属性は緑。黄と青の中間属性に当たります。弱点としては赤、青、黄ですかね。因に未だ試した事はないのですが、生物の成長を促進させる事もできるのではないかと思っております。この場で試してもいいのですが・・・・」
するとその場が湧いた。ぜひやってみてくださいと・・・。
「・・・・・どなたか実験台になってくださりませんか?」
瞬時に凍り付いた。仕方がないですね。
「まぁ、この話は置いておいて、元の話に戻ります。先ほど話したように、自己作成した物によっては、色々な属性を作る事が可能です。先ほどの緑や紫など、色々な属性を作り上げる事により、自分の扱う属性を増やす事ができます。まぁ、属性を増やす辺はあまりお勧めしませんが・・・
本日の授業はここまでです。各自、ホームルーム終了後は速やかに帰宅すること。」
「ありがとうございました。」
もはや儀式化した固定挨拶が講堂に鳴り響く。私もお辞儀をしたあと、講堂を去りました。すぐうしろからは「疲れたぁ~」「あーこれで自由だぜ!」など、自分勝手な言葉が飛び交ってました。私もこれだけで終わりじゃないのですが。
正直な所、もう少しスケールの大きな魔法を見せてやりたかったのです。ですが屋外ではないので、植物の魔法にしたのです。最も得意の属性でしたので、文句は言いませんがね。
そうこう考えてるうちに教務室にたどり着いた。この時間帯は大勢の人がいてもおかしくはないのですが、今日は二三人しかいませんでした。
静かなので作業がはかどって早く帰れます。
「本日の夕食はどうしましょうか。毎晩同じでは困りますよね。」
そんな事を考えながら、ファイルに資料をまとめていた時の事。
『緊急放送です。校内にいる皆様ご静粛にしてください。』
キィーンと耳に響く程の大きな音量で慌てた様子で放送をかける。どうやら音量設定を間違えたようです。
「なんなのですか。音量でかすぎますね。」
そう言い席を立ち入り口付近のスピーカーボリュームをひねる。
『失礼しました』放送いいんらしき人が言う。すると、音量が小さくなりすぎました。音の大きさを直したようです。私は再び音量をもどしに席を立つ。
『・・・た』
聞こえない。しかし、外にいた皆が響めいた。大切な内容なら再度な流れるだろうとボリュームを上げる。
『もう一度言います。・・・大切な事なので言います・・・何度も言いますが事実です。・・・・』
放送委員の声が震えていた。ただ事ではないようです。
『王様が・・・・・・・・・・殺されました。』
すると廊下の響めきは悲鳴へと変わった。それを制すかのように外にいたであろう他の職員が怒鳴る。そんな物何一つ耳に入っては来なかった。私は続きの言葉が気になっていた。
『時刻はニ時間程前、召使いが王の部屋に掃除にきた時に遺体が発見されました。既に息はなかったそうです。死因は出血多量による失血死です。・・・・・犯人は内部の者の犯行だと思われます。現時点で王宮から姿を消している者が一人だけいます。』
「内部、犯行者ですか・・・・・・」
その人がどのような人かは分かりませんが、全く意図が汲めません。何故そのような重罪を起こしたのでしょうか。
『・・・・・・・・・・・・・疑わしい人物の名は「ラヌメット・アファロウス」王宮直属の魔導士です。』
「え・・・・。」
私は耳を疑いました。何故ならその人物は、私のよく知る少年。昔魔道学校異例の飛び級で高等部に進学し、楽々首席で合格してウォイスさんと王宮に上がられた。
「あの子が・・・ですか・・・?」
信じられなかったのです。信じる事ができない。空気が固まった気がした。
『彼は王様と発見される三時間程前に話されてからすぐ王宮を出る手続きをしています。そして、王様との話の時間が、死亡推定時刻と合致しているため、彼だと睨んでおります。皆様は、彼の姿を見かけたとき、不用意に近づいたりせず、王宮の魔導士、または魔道学校の先生に御知らせください。また、彼はものすごい魔力を持っております。十二分に注意してください。』
そこで放送は途切れる。廊下の生徒や職員方は静まり返って、足音しか聞こえない。
え・・・・
「そんなはずないですよ・・・きっと勘違いです・・・だって・・・・彼は・・・・」
急に呼吸がし辛くなって机に突っ伏す。
ハア・・・・ハア・・・・・考え過ぎですかね、聴き間違えですよね。気のせい・・・! ものすごい音を立てて椅子をひっくり返し転ぶ。頭の上に書類がかかり、かけてた眼鏡を踏んで割ってしまいました。辺りに破片が散らばるが、お構い無しに手をつき四つん這いの状態になる。
「・・・・ッあっ・・・・ハアハア・・・・」
苦しい・・・・まともに息ができない。過呼吸ですかね・・・・はぁ・・・・落ち着け・・・落ち着いてください・・・はぁ・・・・
汗か涙か眼鏡が無いからなのか目の前が滲んで・・・・見え辛いですね。
その場にうずくまり、胸に手を当てる。「大丈夫です・・・大丈夫ですから・・・ああぁ・・・・」
「大丈夫ですか?」職員の一人が背中を摩る。
「あぁいうえうあぁ・・・」
まともに返答できなくなってきました・・・眼鏡、新しいの買わなくてはいけませんね・・・不便ですよ・・・・
数分後、医療の先生が来て、よく分かりませんが治療してくださいました。残念な事に眼鏡が無かったので顔はぼやけて見えませんでしたが、あとでお礼に伺えるように住所だけは教えていただきました。
明日は念のため休養しろと言われたので、夕食もそこそこ床に付きました。明日は眼鏡を買わなくてはいけませんね・・・そう思い目を瞑った。
あとで気がついたのですが、手には無数の傷跡が見つかりました。 たぶんうずくまった時に眼鏡の破片で怪我でもしたのでしょう。所々にガラスの破片がささってましたし。それらをがんばってピンセットで抜く作業が大変でしたが・・・・
二の書
翌日、朝早くにインターホンが鳴り、郵便物が届きました。勿論眼鏡が無いのでサインする所を間違えてしまいました・・・・。
開けて見ると花束が入っておりました。しかも文字が小さかったため肝心の宛名が読めず、仕方が無いので花は花瓶に生けて箱は取っておく事にしました。
朝食を作るのも包丁で危うく指を切りそうになったり、サイドの毛を少々燃やしてしまうなどかなり危険なことが起こったため、朝食は近所のカフェまで行って済ませる事にしました。
全くもって朝から散々です。眼鏡のありがたさを改めて痛感致しました。
しかも行った先でもメニューが読めなかったり、ガラスの破片の抜き忘れが発覚し、後で別に医者に行かなくてはならない事が判明致しました。
唯一よかった事は、本日は有休だって事だけです。
結局あれこれ行くべき所に行って終わった時刻は三時頃でした。眼鏡を買ったため行きと違って視界は良好ですが、両手は包帯で巻かれて、あまり自由に動かせません。別に何もする事もありませんし、料理もこの手ではできません。折角なので、久々に図書館へ赴く事にしました。
やはりここの空気はいいと思いました。扉を開けると少々埃臭いですが知識がつまった素敵な世界が広がっていると、見ただけで心が躍りました。
試しに近くにあった薬学書を二、三冊取り出して席に着く。読み始め、2冊目に入ろうとした時、前の方から声が聞こえてきました。
「すると・・・・でした。ひめは・・・刺され・・・眠りに・・・・」
「あれ?死なないの?」
「死なないですよ。」
この声はどこかで聞いた覚えがあります。顔を上げれば藍ともグレーともとれない青年が膝に鮮やかすぎるまでの綺麗な水色の毛並みの子供を乗せて本を読み聞かせていました。ただ、その子の顔はとても鮮やかなフードに隠れてよく見えません。・・・この場に不相応な服装です。しかも読み聞かせてる物語は・・・・・・・・
「眠り姫・・・・ですか・・・」
「・・・・。」
私の声に気がついた青年が私の方を見ました。聞いた事あると思いましたらウォイスさんでした。彼は私を見つけると、その子を膝から降ろし、そのこの手を引き本をもどしに行きました。そのこは「つづきはどうなるの?」と言っていましたが、彼が「あとで読んであげます。」と言うと静かに後に続きました。
本を戻した後、彼は私に目で合図を寄越して付いて来いと促しました。
「偶然ですね、にしても貴方が読み聞かせする所を私は初めて見ましたよ。しかも読んでいた物がメルヘンなお話とは・・・どう言う・・・」
「難しい本は読み聞かせるのには早すぎるだろう。何だお前、俺が送った手紙を読んでいなかったのか?」
「手紙?そんな物読んでませんよ。読む前に眼鏡が破損していたので読むに読めませんでしたよ。」
「そういや眼鏡が新しくなってるな。花束と一緒に送っただろうが、読めないような字で送ったつもりは無いのだが・・・」
そう言い 彼は不本意そうに顔をそらす。これで花束の送り主が分かりました。成る程、ウォイスさんでしたか。
「私、乱視なんですよ、なので、今まで眼鏡が無くて大変でしたよ。ところで私が倒れた事はどの経路から情報を入手したのでしょうか。」
「お前にある事を話そうと思って夕方尋ねたらあの騒ぎだ、お前の事を聞こうと思えば誰にでも聞ける。」
「ですが、今王宮は忙しいのでは・・・・何故貴方がこんな所で・・・」
すると彼は眉をひそめて耳元で話した。
「この方は王子だ。この子は王様が亡くなった事を知らない。その時俺と散歩に出ていたから状況をよく分かってないんだ。」
だからこの子はこんなに深くフードを被せられて、手を握られているのですか。
「この子はきっとこれから一週間もしないうちに王になる。その時をねらって出世したい者共が我先にと政治の実験を握ろうとするだろう。」
まぁ、俺が補佐する事で手を引くだろうがな・・・。
すると彼は、私の手を握り、更に書庫の奥へ奥へと連れて行きました。右手に王子、左手に私。全くもって忙しない。そして、王子を広場に放し、王子の見られる人目につかない位置で彼は口を開いた。
「彼奴は一ヶ月くらい前からおかしかった。書庫から本を大量に借り、一日中部屋に籠ってな。時々外で日に当たっていたのだが、目は前のような綺麗な色じゃなくて、濁っていた。」
彼奴とは、きっとラヌメットさんの事ですかね。こんな事を話すという事は、私が倒れた理由も分かっているという事ですか。
彼は続ける。
「食事中もどこか上の空でな、食事を残した時もあった。たまに声を掛けると受け答えが『うん』『そうですね』としか言わないような状態でな。酷い時は呪文を詠唱してた事もある。それでも会話くらいはできた。」
その辺りは何となく想像がつきます。彼は学生時代から本(禁書)を何冊も持ち出そうとして私が罰した人ですから。でも、彼がそんなに取り付かれたようになるなど、私は見た事ありません。
「でな、昨日散歩のとき、ずっと考えていたのだ。彼奴が詠唱している魔法は何の魔法なのか・・・。それで分かったんだ。」
「王を殺した時に使用された魔法だとでも言うのですか?」
「流石だな、その魔法だと俺は断定した。お前は推理小説の読み過ぎだ。あれは闇の魔術だった。・・・かなり強力な・・・な。
まぁ、俺が使えたから未だ互角には戦える程度だろうが、これ以上野放しにしておけば、どんどん魔法を身につけるだろう。下手したら俺を超えるかも分からない。はやく・・・・肉体に毒が浸透してしまわないうちに・・・」
「毒?」
「いや、何でも無い、こっちの話だ。こんな事をしそうな奴に心当たりがあったのでな。・・・気のせいだといいのだがな。」
そう言うと、彼は自分の手を強く握る。それこそ血が滲みそうなくらいにです。
「だからな・・・「ウォイスー!」
先ほどまで本を読んでいる・・・と言うより見ているに近かった王子が彼を見つけると駆け寄ってきまして、そのまま抱きつきました。端から見れば素敵な兄弟かなにかだと間違うくらいでしょう。
駆け寄ってきた衝撃か、フードが脱げて、王子の顔が見えました。しかし、それもほんの数秒の事、すぐにウォイスがフードを被せ、見えなくなりました。成る程、確かに王様そっくりですね。
「彼奴を見つけた時は、気をつけるんだ。・・・大丈夫だとは思うがな。」
「わかってます。貴方に心配される程私は落ちぶれていませんよ。」
そう言うと彼は、顔をしかめましたが、ため息をついて「じゃあな。」と一言言って、王子を抱きかかえて入り口から出て行きました。
ウォイスさんの針が一部ぼさぼさだったのは何故でしょうかね。
これが私の一生の問題になりました。
後半ノ巻に続く