黒の国〜影の森〜

誰しもハッピーエンドな訳は無いのだから。バッドエンドはすぐ其処まで来ている。

アイヲウタオウヨ2/2

第四章~舞台演技~

 

その後、私達二人は、各部屋に仕掛けを施し、そして、自室へ戻った。

 

 

そして、舞踏会当日になった。

城の使用人達は総出で朝から忙しなく働いている。廊下から各部屋の隅々まで綺麗に掃除をし、調理室では料理長が腕を振るい、豪華な料理が溢れんばかりに並んでいる。そんな様子を見ると、どれだけ盛大な舞踏会を開こうとしているのかがよく分かった。ルシア曰く、普段はもう少し控えめなのだとか、婚約発表だからなのか、それともこの大陸全土からお偉いさんが来るからなのだろうか、使用人達が大変そうだ。

 

「まるでシンデ◯ラだな」

正面玄関の廊下辺りに赤いカーペットが敷かれ、しみじみ俺はそう思った。

可哀想な話だが、今夜俺はその主役を連れてこの王国を飛び出る。

 

二階から見下ろす俺はただのお客として扱われてるようだ。使用人の誰もが俺を見る度に会釈をしてくる。

 

まぁとりあえず来賓の奴らを確認しなきゃな・・・・・

来賓の者は・・・・・・・・・・っと、『ウォイス』『リレイド』他には相手の父と母とか・・・・ん?あの顔はどこかで・・・・・

「ア・・・・」

 

「あら、スペードさんどうして此処にいるのですか」

 

そこにいたのはソシアだった。

「ソシア・・・・まぁ、ちょっと王様に呼ばれてね」

「そのまま舞踏会に引きずり出されたのですかね。その御様子ですと」

「ま・・・まぁな・・・・・・・・」

自分も客として、生涯を共にするパートナーを決めるのだからと

昨日の晩、城の召使いが持って来た服を無理矢理着せられ、今現在に至る。

 

「この国の伝統衣装はどうも好きにはなれねぇよ」

「まぁ、アファレイドは場に応じた服装については厳しい方ですしね。だから、貴方みたいに服を御召しでおられない方には、このように伝統衣装を着せちゃいますよ~って事なんですよね」

ソシアは苦笑しながらも淡々と答える。

 

「それで、お姫様を連れてどうやって逃げるのですか?」

「情報早いな・・・・・・まぁ、何となく攫いました~って感じで外に出たら姫さんの自室に隠れて、見計らって『瑠璃の森』の守護者にでも引き渡そうかな・・・・って感じでいるぜ?」

「久しぶりに聞きましたね・・・・瑠璃の森・・・・・」

「彼処の守護者は女だからな・・・・・・・色々やり取りとかやりやすいだろうと思ってさ」

「そう・・・・・ですか。」

「どうした?」

「いえ、何でも無いです。では私は少し準備がございますので」

「んじゃな」

 

ソシアが階下へ降りてくるのと入れ替わりにルシアが上って来た。

「よぉ、姫さんどうしたんだ。ドレスは着ないのか?」

「その呼び方は止めてくれないか、嫌だ。あと、この国のドレスはあまり丈の長い物は無い。外の者達はそういう文化を持っているからあのようなフリフリを来ておるのだろうが、それに、こちらの方が動きやすいからだ。」

「っていうかあんた、此処にいてもいいのか?こんな所がもし相手にでも見つかってバレたら」

「知り合いだ・・・・・・・」『?』

「そう言えばいい」「ん」

しばらく無言で階下を見下ろす。

相変わらず使用人達が忙しなく働いている

 

ゴーン・・・・・・ゴーン・・・・・・ゴーン・・・・・・

 

「三時・・・か、私はそろそろ支度に行かねばならない。」

「わかってる。じゃ、後でまたあとで、発表の時にでも・・・・・・」

 

背後には誰もいないのに、そんなことを彼女に向かって投げかけてみた。

 

 

 

 

シンデレラのように可憐に儚く散らせてやりましょう。

 

そんなことをささやいて、俺の横を誰かが通り過ぎた。

 

 

 

誰なんだ・・・・・・・?お前は一体

 

第五章~時雨の可憐華~

 

 

大広間では、オーケストラが奏でる軽やかな音楽とともに人々が楽しそうにステップを踏んでいる。そして私も、あの忌々しい・・・・・いや、卑しい相手とステップを踏んでいる。

相手は私の心を掴もうと、綺麗な戯言を投げかけて来るが私の耳には届かない、「瞳が綺麗だね・・」私はそのフレーズを前にも聞いた。目の前の相手の言葉は嬉しくはなかった。不思議な程に、彼に言われた時はすごく嬉しかった。何故なのだろう、気がつけば彼の方ばかりを向いて、踊りの相手の方なんか上の空だった。

 

彼奴も別の女性と楽しげに踊っている。

もちろん上辺だけで・・・・・・・

 

「皆の者、静まりたまえ!」

突然父が声を張り上げて今夜の舞踏会についての詳細を話し始めた。

「・・・・・・・において、此処におられる我が国の王女ルシアと遠方よりお越しいただいた◯◯◯殿との婚約を此処に公表いたし・・・・・「王様!!」

静まり返った大広間に一人の娘の声が木霊する。

「この者です、ルシア様の婚約を阻もうとしておった不届き者は!!」

そして、声のする辺りにいた人々がざわめいた。

それもそのはず、娘の片手に握られていたのは、傷だらけではあるが私でも分かった。彼は私と先ほどまで話していた。

「!!・・・・・・・・スペード・・・・・・・・殿!?」

 

嘘だろ・・・・嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 

彼が殺された・・・・・・・

 

私はその場に倒れ込んだ。

「そんな・・・・・嘘だろう」

 

「皆の者下がれっ!下がるのだ!!」

兵士達が死体の周りを取り囲む、そして女性達はお目当ての男性に縋り付く

 

「王様、ルシア様を安全な所へ!!」

ウォイスが叫ぶ

「ルシアを自室へ早く連れてゆくのだ!!」「はっ!!」

私はそう言われ、城の兵士に連れられて大広間を出た。

 

 

 

 

 

満月の夜、風で開いた扉のカーテンが更に靡く、そして、この月を照らし出したかのような彼の琥珀色の瞳も更に輝いて見えた。

 

 

「慎重に扱えよ、危ないんだぞ・・・・・・」

「分かっている」

 

時刻は十一時三十分

 

此処は私の部屋、彼と二人でちょいと演出(仮)のトリックを作成していた。彼は結局生きていた。

なぜなら彼はあのとき私を連れて出た兵士だからだ。

ではあの娘が持っていた死体は、と言うと

死体本体はウォイスが偽装を施した。私の部屋のぬいぐるみで、娘の方はソシアが協力してくれた。

最初彼は、私を連れて逃げ出そうとしていたのだが、怪しい情報とやらでその計画を中止し、急遽この計画に変えたのだ。

 

それは、私を殺そうとしている奴らがいるとのことだった。私は舞踏会の後、ウォイス達の助けを借りて国外へ逃亡、という計画に変わったのだった。

 

「そろそろ彼奴ら(王)達がこっちに来てもおかしくはないんだけどなぁ・・・・・」

彼は入り口の方を見ながら呟く。

(にしても何だ、この違和感は・・・・・・・)

 

「終わったぞ、これをどうしようと言うのだ?」

「それを窓の近くに置いといてくれ、その紐はカーテンのレールに、んでその端はベッドに括り付けろ、ピンッと引っ張ってな」

 

私は彼に言われるままに仕掛けをした。

こんな仕掛けなら誰でも思いつきそうな程単純な物(トリック)だった。

 

バタン!!

 

「ルシア!!」

「来たか。」

スペードは呟きニマリと笑う。

 

「やはりお前は生きておったのだな、スペードお前がルシアを殺そうとしておるのは知っておったのだ!!」

 

 

「さっさとルシアを渡すのだ!!・・・・・っとでも言う気か?残念ながらこいつは渡せねぇよ。彼女はこれを望んだ。結果として、あんたの政略結婚は失敗というわけ、彼女は別に思い人が居るみてぇだし、後でそこに送って行く。んまぁそれで・・・・・・」

「そんな事させるわけなど無いではないか!!其方の始末は此処でしてやる」

そう言うと、父の後から続々と城の兵が出てきた。そしてあっという間に私達の周りを取り囲んだ。

「ったく、しゃーないな、最後に一つだけ言わせてもらうがよ、この頼みは彼女からのお願いだ。」

「嘘をつくでない!!其方、ルシアがそのような事をするわけがあるまい!!「父上、彼の言う事は真だ。彼は嘘などついてはいない。確かに私は彼に頼んだ。『この国から逃げたい、だから助けてくれ』と、私は・・・・・彼と生きる。彼と・・・・・・スペード殿と!!」

その瞬間場の空気が静まり返ったのが分かった。

そして彼も、目を丸くしてこちらを見つめている。

 

「私は母上のように政略結婚で一生・・・・・・・後悔しながら死んでゆくのは嫌だ・・・・。」

 

私は拳を固く握りしめた。

 

「だから私は、この国の王女を止める。これは私の決めた道、誰にも止めさせはしない』

 

「何・・・・・・・・・だと?ルシア、貴様この国の法律を忘れたわけではなかろう?さんざん教えただろうな。『アファレイド王国法律第三千五百二十二条の一』[国の王室の者はこの国の異種族、及びアイカラーが異なるものとは結ばれてはならない』」

 

そう言うと父はにまりと笑った。

 

「だが私は先ほど、この国の王女を止めると申した。つまり、私は普通の民衆と同じ位になったという事だ。」

「だがしかし、其方は舞踏会の格好だ。その姿では暮らしては行けない」

「どうだ?」と、父は先ほどよりも不適な笑みを浮かべてわらう。

 

そう言われると言い返す言葉が見つからない。確かにこのまま町中を走り回ったって、この格好じゃどこに行っても目立つ

 

「んーちょっと親子の会話を邪魔して悪ぃんだけどよ、これならどうだ?」

スペードがばつが悪そうに話に割って来た。

 

「シンデレラって知ってるか?」

「知っているに決まっているだろう」王はそう答える。

「なら分かるよな?シンデレラは、可憐に変身すんだぜ?」

ニシシ・・・・・・

と彼は笑い、私の着ているドレスの裾を引っ張った。

「なっ!!」王達が身構えた。

次の瞬間、トラップが作動した。

じつは、ドレスの裾には透明なテグスがつながっていたテグスの先はそのままカーテンに結ばれており、その先にはちょっと量の多い小麦粉が吊るしてあった。彼が引っ張ったドレスの勢いでカーテンが一気に落下する。そして、小麦粉も・・・・・

 

白い粉により、視界が悪くなる。そして、兵士達の顔も小麦粉にまみれて白くなっていた。

「「「「げほっげほっ・・・・・」」」」

「み・・皆のものっ!!二人を捉えよ!!スペードの方は始末せずにわしの前に連れてまいれ!!ルシアは隔離しておけ!!』

「「「「「「「「ははっ』』』』』』』』

王の命とともに兵士達が一斉に捜索へ駆け出した。

 

 

 

       ~間~

 

 

 

「捜せ!!探すのだ!!まだ近くに居るはずだ!!」

王の命令で彼女の部屋のテラスに、次々と兵が出て来る。

 

「危なかったな・・・・・・」「あぁ」

 

そんな様子を屋根から眺めている。

『ウォイス・・・・・まだか?」

「もう少しだろ。そろそろ来るはずだ。」

「寒い・・・・・・・な」「おぅ」

 

今夜は一段と冷える。一年中温暖なこの地域だが、この時期の夜は冷える。

夜の風が吹き抜け、吐いた息が白く靄のように消えてゆく。

 

「あの・・・・・・さ、あんたがさっき言った事って、本当なのか?」

隣に居る彼女の肩がビクリとはねる

「・・・・・・それは・・・・・・・」

「・・・・・・・?」寒いからなのか彼女の頬が赤くなっていた。

「本当だ・・・。と申したら、どうするのだ?」

「んー、そうだな、とりあえずテュカリエト地方の方にいこうかなぁ。なんちって」

「なら、私も連れて行ってはくれないか」はい?いまなんと・・・

「いやいやいや、あのな、さっきのは冗談だし、あんたは別の奴が好きなんじゃ・・・・・・・・」

そうだ、彼女は別の男が好きなのだ。本人が昨日言っていたではないか

彼女は俺の手を取り見つめる。

 

「私があの場で申した事は、誠だ。私は、お前の事が好きだ。」

「え?」

 

その瞳は、昨日であった路地裏で見た目と同じ色をしていた。

どこまでも蒼く、この海のように澄んでいる。まるで・・・・・・

 

カオスエメラルドみたいだ。」「?」

彼女はそう言われると、顔を曇らせた。それもそのはず、この時代、カオスエメラルドは昔あった伝説の宝石と謡われ、今では公には知られていないこの世界の宝物だ。

そのためか、今はその名を知るものすら少ない

「あんたみたいなお姫さん、俺にはもったいない。それに、俺と来たって今までみたいに良い暮らしなんて出来ないしさ。」

どうせならもっと・・・・

「私は一生貴方に仕えます。これは私の、最後の我が侭だ。」

良い所に行けば良いのに・・・・・・・

 

「どうか私を、妻として、迎え入れてはくれないか・・・・・?」

 

嗚呼、言われてしまった。これは望んではいけない願い。

「そこまで言われちまうと、後には戻れねぇじゃねぇかよ・・・・・・・」

 

そう、これは彼が望んではいけないものだった。

それは、『愛』

守護者にとって守護の邪魔になるものこそが愛。

彼は今日、手に入れてしまった。

 

守護者にとって一番不要なものを・・・・・・

 

 

国中に舞踏会終了の鐘が鳴り響く時、一つのカップルは城の天辺で愛を誓い、口付けをかわした。

 

 

 

とても綺麗な満月の夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

この物語は十年経った今でも、アファレイドの庶民達の間で語り継がれているそうな

一人の王女の逃走劇

それは、国を大きく揺るがしたものとなった。

 

一人は言う、「戦いなど虚しいだけ』 一人は言う、「僕を一人にしないで』 一人は言う、「人それぞれで良いのだ』 一人は言う、「片方を守る者、もう片方を失う」 四人は言う、「この物語を作るのは自分たち自身なのだ。』と、 だから僕は守る、彼女に頼まれたあの子と、この世界の運命を・・・・・・・・