長編オリソニ小説〜永久の月光花〜No6 2/2
第二十四章~記憶~
「く・・・来るなっ!!化け物!!」
そう言い何度人々に嫌われ、恐れられ、仕舞には封印されることになってしまった自分。
そんな過去の自分と重なってしまったのがあの少年
自分の力のせいで、軽蔑され、恐れられ、仕舞には家族まで失った。
そんな少年を、僕は生まれた頃から見ていた。
本当に小さな頃は、泣かされても家族の前では笑っていることが多く、泣くことはあまり無かった。
がしかし、彼が三つになる少し前だっただろうか、
雪解けの時期には珍しく酷く寒い晩だった。
その日少年の帰宅は遅く、両親は心配し、窓の外を眺めていた。
この時間にもなると空は暗くなり、なんだか雲行きも怪しくなって来た。
心配になった父親は、外へ少年を探しに行った。
村の中心部の噴水広場で見つかった少年の姿は酷い有り様だった。
頭の先からつま先までビッショリと濡れており、手や足からは鮮血を流し、はいていた靴は足元に転がっていて、素足で冷たい雪の上に立っていた。
父親が「何があった?」「どうした?」などと少年に聞くが、少年は口を閉じたまま俯いていた。
「あのね・・・・・」
ようやく口を開いた少年は、霜焼けになりかけていた手を片目に当てて、俯いたまま続けたのだそうだ。
今日の昼頃、この村で最も権力のある家の息子にいつも通りいじめられていた。「今日は親がムカついた」と自分にさんざん暴力をふるい、それだけでは足りないとばかりに、持っていた果物ナイフで斬りつけられた。
周りの者はおもしろがって誰も止める者はいなかった。
「サイテーだ」
そう呟いたら今度はまた殴るの繰り返しだった。
そのうちそいつは飽きてきたみたいで、自分の靴を奪い、噴水の中に落とした。天候が怪しくなり、見ていた奴らは各自家に帰って行った。
その中自分はひとり、氷点下以下の水の中に入り、必死に靴を取ろうと手を伸ばす。噴水の噴き出しの所に靴が引っかかっているのに気がついた。
幼いかれは胸まで冷たいに水に浸かり、もう既にひん死の状態だった。
その時通りかかった男が一言「寒くなってきたし、帰ったらどうだ?」と告げた。「いやだ」と一言。
男はマッチに火をつけて少年に手渡した。
「今取ってやるから持ってろ」
危険だから、と男は靴を脱ぎ、水に入って行った。
しばらくして男は靴を持って上がってきた。
「全く、この村はどうなってんだよ。争いを止めようとする者も現れんとは、」
物騒だ,と少年にマッチ箱を二つ渡して父に用があると森の方へ歩いて行った。
その時少年に何故マッチ箱を渡したかは不明である。
相変わらず冷たい牢獄の中、自分一人の声だけが木霊する。
シルバーの封印は解かれてはいないだろうか、十年前に解かれてしまった自分が彼を心配してどうするのだ、とすごく情けなく感じた。
『あの子を、お前が見守ってやってはくれないか』
私だけでも側に居てやりたいが、村が滅びる直前に彼女が放った言葉が胸に焼き付いた。
ずっと前、アークでの事件を思い出す。
「マリア・・・・・・」
彼女を守れなかったことは、今でも悔しい
幼い頃のスパークに一度だけ顔を見せたことがあった。
その時はまだルシアに抱かれていた。瞳は琥珀色で父親似、所々に青い混じり毛があるこちら母親似。種族は父親と同じようだ。性格は穏やかで鈍い所がある、しかし全体的に父親の影響が強いようだ。
まだ幼い琥珀色の瞳が自分を見て泣いていたのを思い出す。その様子を見てスペードは笑い転げていたのを覚えている。
『その仏頂面直した方がいいんじゃねぇのかwww』
昔にもそんな事を言っていた奴がいた気がする。
すでに彼はこの世に居ないのだが
「あんた、何笑ってんだよ。」
「すまないな、少し思い出しただけだ」
牢屋の番人のザルガ、彼は暇なようで、格子越しによく話をする。
あんたが笑うなんて気持ちわりぃ、そう言いそっぽを向く
僕はたまに思うのだ。あの惨劇が無ければ、アファレイドの王を殺さなければきっと、彼らは幸せに生きられたのではないのか、と
『あの子を、お前が見守ってやってはくれないか』
そう言い僕の手を握る。握る力は弱い
僕は思った。彼女はもう生きられないと
アファレイドの国の人の特徴的な青い瞳はもう焦点は合ってなく、ただ彼女は弱々しく微笑み「頼む」と言うと力つきた。
街の中心部からは息子が走って来る。
僕は、彼女の側から離れ森の奥へ消えて行った。
後から彼の咽び泣く声だけが木霊する。
もうこの村には自分以外生きていないのだと、そう自分に言い聞かせるかのような、悲痛な叫び声
僕はあの時、スパークを助けようと誓った。
NEXT No.7に続く 影森