黒の国〜影の森〜

誰しもハッピーエンドな訳は無いのだから。バッドエンドはすぐ其処まで来ている。

EXIT

??????? 

 

嗚呼まただ。また、また封印されてしまう。また独りだ。

でも僕はもう見ているだけ、壊れる世界を見てるだけ、ごめんなさい僕を、いや、僕じゃないか...世界を救いに来てくれた人たち。

僕はもう見てるだけ、誰もが僕を悪と疑ってやまない。

僕は悪くないんだ。

『助けて』

呼応するものなんて何もない

やっぱり自分には味方がいないんだ。

もう僕はひとりぼっち この惨状を眺めるだけだ。壊れちゃうそうだ。

 

こえる...

聞こえないよ。

聞こ..える...

 

糸だ。細く千切れそうな糸。僕にしか見えない。今まで見えなかった糸。よく見れば僕の体にしっかりと巻かれていた。誰がこんなことをした。体は言うことを聞かない。もうだめだ。でも語りかけるそれは話をやめない。

 

そんなのわかってることでしょ

『僕がわかっていること』

君が一番好きな人の名前を呼ぶんだ。

『もう体は言うことを聞かないんだ。あいつに乗っ取られているから。もう何も』

僕が隙を作ろう。

『そんなこと無理だ。もう僕は何十年と外に出られていない。アッシュに、彼に会いに行った日が最後だ...』

君は立派だ。操られはしても、心までは侵されてない。

大丈夫、僕が引き上げるから。辛い立場に置いて悪かった。

 

引き上げられる意識とともに徐々に覚醒していく。なぜだろう、わからないのに懐かしい感じがする。彼といた時の感じだ。あぁ、今なら言える気がした。もう二度と出ないと思った声帯を震わせて外気を吸う。

大好きな人の名前を呼ぶんだ。

 

こんな糸をつけたのは、結ばれて離れない永遠の糸をつけられるのは

ーー僕しかいない。

「ラヌ!!!!!」

僕は何を言っているんだ。ラヌメットはこの僕じゃないか。そうだろ。戸惑いとともに一気に水面に引きずり出される。四肢の感覚が戻る。重苦しい色の大地にボロボロの地上、半壊した建物と、自身の名を呼んだことに対する驚き、戦闘で疲弊した人々を見渡す。

「やっぱり僕は天才だ」

そこには緑の瞳をしたアッシュがいた。

 

 

もうおしまいだと思った。封印されている間にためた力は膨大で、手も足も出るはずがなかった。

そんな最中、誰もが絶望しているのに、悠々と前に進み出たのがアッシュだった。

そして言った。

「やっぱり僕は天才だ」

それはどこか愉快で軽くて、先ほどまでの重い彼の口ぶりとは打って変わっていた。そしてそれとともに紅月の攻撃は止んだ。アッシュを凝視して、動かない。

 

「待たせてごめんね。アッシュ

 

彼がそう言うとガラスが砕けるような音とともに紅月が叫んだ。

「なぜだ!なぜ貴様がここにいる!」

アッシュは、正確には自分たちがアッシュと呼んでいた人物は満足げにあいつを見つめる。

「おかしい」

「どうしたんだ?」

「紅月が保有していた魔力が急速にアッシュに吸い寄せられてく。まるで彼みたいだ...ラヌメットが、そこにいるみたい」

シャオンはアッシュを見る。

風にあおられてなびく服が変わっていく。アッシュだと思っていた彼の声は愛らしい青年の声に。

対照的に紅月はアッシュの姿に変わっていく。

 

「王子もご無事でなにより」

シャオンを見たアッシュはもう、アッシュではなく、ウサギの魔法使いに変わっていた。

 

「もうじき君は魔力がそこ尽きるはずだ。僕はずっとここにいた。アッシュとして。記憶を引き換えにアッシュに半永久的に魔力を供給していた。代わりに僕はアッシュが生きている限り不死身の身体を得た。」

 

君は僕に、僕は君に

 

契約は互いに刻まれた刻印。糸なのだ。解除の方法は、互いが互いを思い出すこと。

「僕が簡単に出てくるなんてうまい話があるわけないじゃないか。」

紅月はひざまづいて魔法使いを見る。ラヌメット、というべきか。

「先生をダシにされたこと、アッシュに辛い目を味あわせることになったこと、全てにおいて僕の責任だ。」

一歩ずつ前に歩みを進める。

「師匠の教え通り、僕がしたことは僕が決着をつける」

紅月は無様にあとずさる。こんなものが見れるなどと。

「幸いに、アッシュは不死身だ。僕には殺せない。」

これでいいんだ。これで。

「ウォイスさん、いいですよね。」

 

 

幼少より見ていた仔ウサギはこちらを見る。ある時は対峙し、ある時は寝食を共にした。もう、幼くなどなかったのだ。

決着をつけていいのか。この長い戦いに

「師匠」

100年前、彼を封印したのは、彼自身が瑠璃の森、ひいてはこの国の自然の加護を受けていたからだ。彼の無限の魔力を吸い上げることはできるはずがなかった。

幼少期、その存在に気付き脅威になる前に処分するつもりで国に連れてきたはずなのだ。だが殺すことができなかった。どうしてなのだろうか。

「僕が処分していいですか」

ああ、よかった。これでよかった。

「決着をつけてくれ...。」

か細く口から溢れた言葉と終わることへの安堵。長かった戦いに終止符を打つ。

殺さなくてよかった...。

 

一人は言う、「戦いなど虚しいだけ』 一人は言う、「僕を一人にしないで』 一人は言う、「人それぞれで良いのだ』 一人は言う、「片方を守る者、もう片方を失う」 四人は言う、「この物語を作るのは自分たち自身なのだ。』と、 だから僕は守る、彼女に頼まれたあの子と、この世界の運命を・・・・・・・・