黒の国〜影の森〜

誰しもハッピーエンドな訳は無いのだから。バッドエンドはすぐ其処まで来ている。

オリソニ小説〜永久の月光花No.16

××××××××××××××××

 

「あれぇ?」

「来たか….」

「なんだスペードちゃんじゃないの~?残念」

待ち合わせていた女はそう言って隣に座った。

「アイツは」

「そんなほいほい現れてたら困るわ…」

そう言って女は茶化すように笑った

「で?ご用事はなぁに?まさか、せっかくココまで来てさしあげたのに『アイツに話す』なんて言わないわよねぇ?」

「….」

「あ、まさかホントだった?ちょっと、冗談はやめてよ。あの人は手ぶらじゃ満足しないわ」

 

そう言ってけらけら笑う。こいつはオンとオフの差が激しいと思った。

俺は深いため息をついて口を開いた

 

「お前らの仲間に入る話だが……」

「あら、貴方にそんな話が来てたの。寛大ね。あの人……で?」

女はせかすように俺を見た

「……様子を見させてもらう」

「は?まさかアンタ。良い話、断ろうっての?」

女は語気を荒げた。俺は続ける

「話は最後まで聞け。俺はどちらにも付かない。それに今のアイツは…..知ってるアイツじゃない。信用は出来ない」

「ふーん……それだけ?」

女はつまらなそうに立ち上がった。

「土産にすらならなかったわ。とんだ無駄足だ」

そう言って立ち去った。

 

『お前は大切な奴らしい。特別に殺さないでおいてやろう』

 

見たことがある筈なのに、見た事がない奴。

その手で沢山の事を教えてくれた。筈なのにその手は汚れていた。

 

××××××××

 

『なんと速報です!あの有名小説家がこの町でサイン会を行うことが決まったそうです!』

キャスターはファンなのか、声を荒げて伝える。これでは数分後には狂喜乱舞の一人演劇会にでもなりそうだ。

 

「はっ、どうせどこぞのラブコメの作家でしょう。んな安っぽいのは本とは呼ばないわ」

時刻は夕食前、いつもの野次馬性たっぷりの番組を見ながらベルは思い切り作家の名がでる前から貶した

 

『気になる作家名はこの後何時より特集でお送りします!』

そしてテレビが切り替わりいつものCMになった。

 

「ほー、スクープっていってネタをのばすのは最近のメディアのお得意技だよな」

「お腹すいたーベルちゃんご飯~!」

そういってモコモコのパジャマに着替えたシャルルが現れた。

「あなたを待ってたんですー!ったく風呂だけいっちょまえに長くてどうなってんのよあんたは」

そういいながら夕食のカレーを火にかける。

 

プルルルル………プルルルル

突如として電話が鳴り響いた。俺は急いで受話器を取った。

 

「はい、民宿ひのきんじつです。」

『あ~ウェインちゃんちょっといいか~』

「おじさんかよ、電話ならうちのにかけてくれよ!」

おじさんといっても親族という意味ではなく、同業者の古株で、皆からおじさんと呼ばれているから俺もそう呼んでいる。

『今日は仕事だよ仕事、今うち満室でさ、宿を探してる人がいるんだ。あんたんとこ、どうせ人いないだろ?客人にそっち紹介したからよ、よかったr….」

「ちょ、ちょとまて!今そのヒト向かってきてんのか!?」

『おう!」

おうじゃないだろう…俺は内心悪態をついた。

 

「ベル、客が来るみたいだ」

「はぁ!?」

まぁこういう反応が普通だよな。

ベルはぶつぶついいながら、新しい皿を準備し始める

『んじゃあよろしくな。長期滞在みたいな話してたからそこの方よろしくな』

「えっ!?」

ブッ

 

「お客さん?お兄ちゃんかな、お姉ちゃんかな!?」

シャルルはいつもどうりこたつの真ん中で布団にくるまり聞いてきた

「さぁな。まぁ客が車で食事はお預けだな」

おじさんのことだから厄介な客を押し付けてこないとも限らない、憂鬱である

「あーあ、ガス代がもったいない!」

隣にドスンとベルが座りテレビをつけた。ちょうどさっきの特集が始まるところだった。

「こんばんは~夜分にすみません」

客人がきたようだった。だいぶ早い到着のような気がしたが、おじさんは見計らってかけてくれたのだろうか?

「待ってましたよ。」

「すみません、突然ですがよろしくお願いします。」

そういうと客人は頭をかいた。旅人のようだった。かなりの重装備だったので山からきたのだろう。温度差か頬が少し赤くなっていた。

「うおー、お兄さんだ!今日はどこからきたの?どれくらいかかった!?」

シャルルは音を聞きつけてくるなり質問攻めにした。

 

「すみません礼儀知らずで」

「へへへ、いいんですよ、自分もこれくらいのときはきっとこんなでしたから」

「受付こっち!」

そういってシャルルは客人を引っぱり中へあげた。

 

「ったく。」

俺は久々ににぎやかな夕食になりそうだと思うのと同時に何か不安なものが心の中に渦巻いた。

 

 

「おっ、カレーか!」

客人は鼻をひくつかせてうれしそうに話し始めた。

 

「急なことだったのでこれくらいしか用意できませんで」

「いえ、俺もカレー大好きですから」

フードの隙間から少し笑ったように見えた。

 

夕食をすませて、シャルルとベルが寝た頃、俺は客人と二人きりになった。

客人はティュリネイトからきたとかなんとか、アッシュと名乗った。

 

「ねえお兄さん、ここって開業して何年くらい?」

「んー、半年くらいですね。形からと思ったんですけど、なにぶんお金がかかりますのでね…向こうよりボロくてすみません。前の宿がよかったですか?」

「そっかー、でも開業したばかりの宿ならこれだけで十分だよ」

「ありがとうございます」

「ねえ、少しアドバイスしていい?」

「どこか気に食わない点でも?」

そういうとアッシュは周りを見回した

「ここってさ、微妙に臭うのさ。」

「え、ああ、ごめんなさい、洗濯はまとめて行ってるので」

「血のにおい、残ってるよ。あと火薬の香り」

俺は笑顔のまま固まった

「お兄さん達、これ本業じゃないよね。だってこんなガラガラなら半年経てば潰れてるよ。聞いた話じゃ資産がないとか。その割にはご飯おいしかったしさ。ぶっちゃけ何してんのよ。」そういいながら、お砂糖たっぷりのコーヒーを飲んだ

「どういうことだ」

俺はアッシュを見つめた。

「シラはきりとおさないでおくれよ、話しにくくなるじゃないか。…じゃあこういおうか。Gold Sheep. 」

そういうと立ち上がった。続けて立ち上がる。

「いつから気がついた」

「名前。きんのひつじを並べ替えただけじゃないか」

「俺たちを脅すつもりですか?」

まさか!アッシュは大げさに肩をすくめて笑った

「そんなことをしたら即死でしょう?今日は依頼をすることと、お泊まりをしにきただけですから」

そういうと俺に向き直って切り出した。

「今から特殊な依頼をします。お代は幾らでも。僕のお財布から幾らでも引っ張ってよろしい。三日後、サイン会会場でこの僕の存在を、世間的に抹殺していただきたい」

サイン会?

「お前…あの作家か?」

「ええ、そろそろ表舞台から姿を消すことになりそうですので」

そういうとアッシュはよいを答えをお待ちしてます。そういって客室へ消えた。

 

 ****

 

円が徐々に縮まっていく……集中力を切らす事さえ出来れば……

 

「なんもできねぇって歯がゆいよなぁ…わかるわかるうんうん」

嬉々と様子を見ているあいつは実況を始めた

 

「…登れねぇかな」

周囲のものを投げ終えてしまったステラはそう呟いて球体に手をかけた。

「下手に触ったら危ないって!」

「でもさっき壊れなかったぜー!」

ステラは靴を脱ぎ捨てそっと登っていった。

出来るだけ早く

 

おりてきた

 

そして一言

「無理だな!」

「今回はずいぶん潔いんだね!」

「俺その辺中に入れるとこ探してくるわ!」

そういってステアは円の周りを走っていった

 

「あーあ、あれはだめだな」

アスラは笑って僕をみた。殺すことを何も躊躇してないように見えた

僕は本を広げた。

 

**********

 

「こ、こんな紙切れをどうするってのよ!」

サファリは焦ってるのか声を荒げた。

「この陣をかけ」

そういって古い本をサファリに突きつけた

「お前は絵が得意なようだからな」

「わ、わかった」

サファリはものの数秒でその陣を書き上げた。

「これをどうすればいいの?」

「そのドアに張れ」

といって指をさしたのは俺たちが入ってきたドアだった。

「そんなんで本当にいけるのか?っちょ!!」

そんな俺の質問はきれいに無視され俺とサファリはアッシュに抱えられた。

 

「一時戻すか」

奇妙なことをつぶやきドアを開けた

 

飛び出れば、まぶしすぎるほどの光、そして下には地面……

「地面!?」

「貴様らはこの場を離れ、クロースの元へいけ。こんなところで足止めを食らうとはお粗末だろう」

「え、ちょっとまて」

そういうと俺らを叩き付けるように投げ捨てた

 

「お前のせいでショーは台無しだ。せっかく弟達の借りを返そうと思ったのになぁ!」

そういうと空から槍が降ってきた。

「力任せの魔法は身を滅ぼすだけだ」

アッシュはよけながら徐々にロアールとの距離をつめていく。

 

「そしてあるとき力を鎮めていた精神が崩壊し、よくないものに身をとられる。このように」

そういうと腹部に一発食らわせた。瞬間ロアールは地面に叩き付けられ、黒いドームは崩壊した。

 

「待ち人の家を壊すな。なくなるだろう!」

そういうと思い切り腹部を踏みつけた。

「ゲッ…前に合ったときよりずいぶんと語るようになったな。お前であってお前じゃないようだ。前は俺を殺そうなど思わなかったよなぁ…いつだっけ、仲間に引入れようとした。」

か細い声でアッシュに語りかける

「無駄口はその辺にしろ。その口を閉ざしてやろうか」

「つまり、それがお前の答えか。」

「俺はグレーゾーンだ、それはかわらない。ただし、あいつの居場所を奪うのは、俺が許さん」

そういって足を振り上げ。

 

下ろした。

 

 

俺は初めてアッシュという人物が感情をあらわにしたのを見た。

なんて激しく、なんて悲しく、儚いのか…

 

『ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい』

目の前でおこっていることは映画のように思えた。まるでスクリーンのような

俺は何故か怖いと、思わなかった。

 

彼はうわごとのように同じ言葉をつぶやく。

(殺せばすべてが同じだと、なぜ今頃気がついた)

 

ナンデキガツイタノ

 

 

『あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”』

耳の中にはその言葉が残響する。ガンガンする

周りの奴らが目を背ける、俺はっ黒い闇に放り込まれる。もがいて足掻いて

気がついたらかつての町。

     殺せない。君には殺しは向かないよ」

見慣れたヤツがいた。汚れてないあいつが。

 

『ー!!」

アイツって誰だっけ…

俺は声をかけなかった。

 

*******

 

「あれ、もう終わりか。んじゃ、おいとましよっと!」

そういうとつまらなそうにアスラはロアールに近づき担ぎ上げた。

 

「じゃ、俺は上に報告しねえとだ。お人形遊び楽しかったぜぃ!こいつは精々サンプルかなんかになるだろうよ」

 

「お人形?」

やはり彼は何かが狂っているのだろうか。僕が引き止める前に遠くへ走り去ってしまった。

僕はアスラとロアールが下がったあと、ふと思った。このアッシュはロアールと面識があったのか、そして一人で捩じ伏せられるほど強大な力を持っているのか。

そして一瞬感じたすごい気配とその直後にアッシュ達が現れたこと。

 

僕はアッシュに歩み寄った。未だうわ言のようにつぶやき続ける。

「君は、殺めてない。」

「…」

アッシュは僕をみた。気がついたら言っていた。確証はない、でも言ってしまった以上続けるしかなかった。

「息はあったよ。ただ中身は壊れてるだろう。魔法は使えるかもしれない。でも元には戻らないよ」

デタラメだ。でもアッシュは僕を見上げて一筋、涙を流した。

「お前は………………………どこまで付きまとえば気が済むんだ..XXXX」

最後はわからない。掠れて聞こえなかった。アッシュは僕の耳元で

「さっさと行け。…俺の前から消え失せろ」

そういうとおぼつかない足取りで廃都へと消えた。

 

 

後にはどうしようもないやるせなさで、突っ立っているだけの僕らが残っていた。

 

「こんなところで突っ立ってんのもあれだから、行くか。」

スパークが声を上げた。

「そうだね。だいぶ遅い旅立ちになったけど行こうか」

そして僕らは廃都をあとにした。虚しさを引きずって

一人は言う、「戦いなど虚しいだけ』 一人は言う、「僕を一人にしないで』 一人は言う、「人それぞれで良いのだ』 一人は言う、「片方を守る者、もう片方を失う」 四人は言う、「この物語を作るのは自分たち自身なのだ。』と、 だから僕は守る、彼女に頼まれたあの子と、この世界の運命を・・・・・・・・