黒の国〜影の森〜

誰しもハッピーエンドな訳は無いのだから。バッドエンドはすぐ其処まで来ている。

独白〜Request of a secret〜

今度の月曜日 いつもの店でまってます

 

 

いつものボイスメールで届いた。自分が字を読む事ができないから。

 

数年ぶりに繰り出した街は、随分と不穏な空気に包まれていた。

『君が怖がっているからだよ。いつもと同じさ。』

毎回そう言って笑っていた。

 

いつもと同じ窓辺の暖かい席、常連だからかアイツが頼んでいたからかいつも桃のジュースが出てくる。

そして俺は、いつもと同じようにアイツが来るまでジュースを飲みながら辺りを見回す。

 

「おまたせしました。」

向かいにびしょ濡れになったアイツが座った。空はこんなにも晴れてるのに

「ちょっと、雰囲気変わったな」

「うん、ちょっと染めてみた」

最近の流行なのか赤だった。ただ、目だけはいつも通りの緑で、不釣り合いだ。

「今日は、客が少ない気がするが」

「そうだね、ちょっと、職場で騒動があってさ」

アイツの職場と言うと城だ。それなのにこうやって抜け出してきて良いのだろうか。俺は単純にそう思った。

「一大事なのに抜け出してどうしたって顔してるね。大丈夫、ちょっと休憩にはいってきたから。」

「あいつに何かあったのか」

「!….まぁね…謀反っていうか…」

急にあいつの口が重くなった。ムホンという単語は分からなかったが、それなりに大変な事なのだと感じた。

「死んじゃった」

「…は」

「ラネちゃん死んじゃったよ。死因は正面からの刺殺で間違いない。凶器は分からないんだけど…最悪だよ…」

耳を疑った。王が死んだ。だからこんなにも、騒がしかったわけだ。

「…そうか」

やけに自分は冷静な気がした。いや、冷静を装っただけかもしれない。

向かいに座ったアイツはいそいそと紙を二つ取り出して何かを書き始めた。

「しかし、あんなに強固なガードの中、どうやって…」

「考えられる可能性は二つ、一つ目は外部の奴。もう一つは、内部…」

考えられない。あれだけ人のよい王が何か恨みを買うなど。

あいつはモゾモゾと手を動かしながら喋る。器用な奴だ。

「でもね、部外者はその時間帯、いなかったんだ……つまり犯人は」

 

「王に仕える誰か…」

「ウォイスさまがね、」下を向いてあいつは切り出した。悔しそうに。

「殺した時は、僕は王子と外に出てた。その時はおやつの時間でさ、今日はウォイスさまの番だった。」

「…お前は身内を疑うのか!」

勢いで立ち上がってしまった。グラスが転ぶが幸い中身は空だったので零れはしなかった。そっと座り直す。

中にいた数人な客が俺を見てた。

「そうじゃないよ」

そう言うと彼は首を振った。

 

「疑われてるのは、僕なんだよ」

 

最後は掠れてとても聞き取り辛かったが聞こえた。自分の目の前にいる奴が疑われている。

「お前が…」

「違うよ、僕はしていない。だって僕は王子と一緒に外にいた。残っていたのはウォイスさまだ。僕のアリバイは知っている筈なのに、皆僕が犯人だと」

「王子は」

「面会ダメだったよ。変装してたし……」

疑われているにも関わらず変装までして王宮に潜り込むという度胸は尊敬したいが無茶な気もする。

「多分、皆洗脳されたんだ。僕はちゃんとウォイスさまの事覚えているんだ。ローブに少し赤い物がついていた。」

そこまで言って、一気にコーヒーを呷った。…咽せた

「あの人は僕よりずっと高度な魔法を覚えてるし、ずっと生きてる分知識も深い。みんな信じるんだよ、あの人が一番古株だし」

 

「自分の立ち位地を利用した。」

小さく頷いた

「僕にはあの人の過去と密接に関わる何かがあるんだ。」

「過去...」

 

もしかしたらそれは僕の…いやあの人の何かを壊す物だったのかもしれない。

 

「この国の前に魔道王国があったんだって…字は読めなかったけど。何かで壊滅したらしい」

強固な呪詛がかけられててさ、解くのに時間掛っちゃって…

 

そう言うと彼は耳をそばだてるような仕草をして俺の耳元で話した

「僕はしばらく身を隠す事にするよ。この事は秘密にして」

そう言うと俺にあいつは紙と本を押し付けた。

「これは…」

「しばらく…と言っても一週間だけ此処にいる。この本、君みたいに字が読めない方が却って分かるかもしれない。解読して、いくらかかっても構わないから」

「解読…そんな高度な…」

「一週間後に戴冠式があるんだ。」

 

それまでは此処にいる。

 

戴冠式…貴様何か騒動を起こすつもりか!」

戴冠式は旧王が死亡した後葬儀の翌日に行われるらしい。

 

「…んー、これ以上はいえないな。僕に用があるならここに書いてあるとこに来て。いつでも会いにいくから。」

「おい…!…お前が悪いと判断したらお前には一切協力しないぞ」

最後には俺が折れた。

「…ありがとう。君はいつもどっち付かずだね。」

いつも通り…いや、少し悲しそうに微笑んで彼は「この住所は絶対に王宮の関係者にはいわないで。」と念を押し俺の元を離れた。

 

そのとき俺は、特に考えもせず了承した。よく考えてみればそれは、あいつの運命を決める物だったのかもしれない。

 

 

 

 

 

それからしばらくして、あいつは公では処分されたらしい。…罪人として

 

 

 

数日前に、ウォイスの手先が来た。

「あの人の事、まっててほしい」やけに甘ったれた考えの持ち主だと思った。

エメラルドを渡された。お守りだと。

 

いわれなくてもまっている。ずっとずっと前から。

 

「解読は終わったぞ。いつでも伝えられる。」

「はい?」

弟子らしい奴が振り向いた

「いや、なんでもない」

最近考えている事がぽろっと出てしまう。気をつけなくてはいけない。

さっきの奴、大分目が青かった。あいつに似てる。

 

アイツが書いた場所は、もう別の建物で、少し進むと昔遊んだ社が見えた。

あいつは何を考え此処にしたのか分からない。いつもいくが、あいつは現れない

 

弟子の話では処分、という名目で封印という物をされるらしい。フウインは弱まる時期があると聞いた。ウォイスには秘密らしい。

 

 

「しばらくはどっちつかずで行くか。」

誰にいうとなく呟いた。

 

『お前が悪いと判断したらお前には一切協力しないぞ』

 

俺はまだお前が完全に悪いとは思えてない。

だから俺の出した結論は

もう暫く信じる。

あいつの残したメッセージが読めるまで

 

真実を知るのは死んだ王ただ一人。

 

 

 

「おじゃましまーす・・・・・誰かいませんよねー?」

ガチャリとドアが開く音がした。

俺が待っていた奴らが来たようだ。

さて、自分は頼まれた仕事をするまでだ。

「お前ら、こんな所で何をやっている。」

そう言いながらほくそ笑んだ。

一人は言う、「戦いなど虚しいだけ』 一人は言う、「僕を一人にしないで』 一人は言う、「人それぞれで良いのだ』 一人は言う、「片方を守る者、もう片方を失う」 四人は言う、「この物語を作るのは自分たち自身なのだ。』と、 だから僕は守る、彼女に頼まれたあの子と、この世界の運命を・・・・・・・・