黒の国〜影の森〜

誰しもハッピーエンドな訳は無いのだから。バッドエンドはすぐ其処まで来ている。

An unripe teacher

「あのー・・・」

「はい。」

先ほどからカウンタ―付近を行ったり来たりしていた女性は僕に恐る恐る声を掛けた。

「どこに行けば国土の資料は手に入りますか?」

「図書館から泥棒でもするつもりですか、たいした度胸ですね。書店にいくらでも売っているでしょ」

「ちちち違いますっ!授業で使うんです!ちゃんと許可証もありますからっ!」

そう言うと彼女はガサゴソとカバンの中を弄ってしわくちゃの紙を見せた。

「図書館ではお静かにしてくださいっ!」

「ごめんなさい!静かにするから怒鳴らないでください!」

それで我に返った僕は小さく咳払いをして女子生徒に告げた。

「国土なのであれば105から10書架、下段をよく探したらどうでしょうか」

 

「あ、ありがとうございます!」

彼女はそう言うと一目散に書架の方へ走って行った。

 

「おまえは鬼か・・・」

「はい?」

声のした方を向くと強面のあの人が本を抱えて睨んでいた。

「お待たせしてすみません。返却ですか?」

「第一授業はどうした。サボリか」

「いいえ、どちらでしょう?」

僕が愛想良くそう返すとあの人は小さく「返却」と呟いた。

僕は手早く右手前の引き出しから印鑑を取り出し、貸し出しカードに今日付けの印を押した。

「それでは本は預かりますのでこれで・・・」

そう言って渡された本を奥の書架に戻そうと持ち上げた所でその本の上にばん!と手が置かれた。

「またサボったのか」

「サボってません。本を読ませてください」

「だめだ」

僕はバツが悪そうにあの人に向き直った。

「理由を言え」

「ですから、しばらくは出る授業が無いんです。」

そう言うとあの人は更に眉間にしわを寄せた。

「サボリか。」

「ふざけないでください。先生でもそのような言いがかりは許しません」

「では何故此処で番をしている。彼奴はどうした。」

「二週間出張なのでその間、書庫の管理を任されました。」

「高等部の学生のお前にか、まあこの図書館の内部にある書架を全て記憶しているのはお前くらいだろうからな」

「薬学は取れましたし、もう残った総合科の授業は殆どないですから。」

書庫の管理がしたかったなんて口が裂けても言えない

 

「お前は何の職に就きたいんだ」

「急になんですか。」

「もう半年もすれば最終試験だろうが」

そう言えばそうだった。

「そうですね・・・先生ですかね。」

人前は苦手なんですが。

「あの、いい加減本をお離しください。冊子が傷みます」

「ほう・・・意外だ。お前なら研究職にでも就きそうだが」

そう言うとあの人は本を抑えていた手を離した。

「これから王宮にでもいかれるのですか?」

「それ以外に何がある。」

「二つ掛け持ちは大変ですね。ならば、油売っていないで早く行かれた方がよろしいのではありませんか?先生?」

そう言って奥の本棚にようやく本を戻す。この本棚は返却用であり、一定数たまると勝手に元の場所に書籍を戻してくれるので便利だ。

 

「お前はやはり薬学を専攻するのか?」

「とりあえず総合学科で受けようと思ってます。」

そう言いながら椅子に座って本を開く。このやり取りが調書作成に思えて来た。

「そういえば眼鏡、替えたのか」

「変えたのは二年以上前ですが。」

「そうか」

そう言うと先生はくるりと踵を返して図書館を後にして行った。

 

それにしても先生は僕と変わらない年に思えるのに何故王宮の重役もこなすほどの技量があるのかと、とても不思議に思えてならなかった。

 

 

一人は言う、「戦いなど虚しいだけ』 一人は言う、「僕を一人にしないで』 一人は言う、「人それぞれで良いのだ』 一人は言う、「片方を守る者、もう片方を失う」 四人は言う、「この物語を作るのは自分たち自身なのだ。』と、 だから僕は守る、彼女に頼まれたあの子と、この世界の運命を・・・・・・・・