黒の国〜影の森〜

誰しもハッピーエンドな訳は無いのだから。バッドエンドはすぐ其処まで来ている。

An unripe teacher

「あのー・・・」

「はい。」

先ほどからカウンタ―付近を行ったり来たりしていた女性は僕に恐る恐る声を掛けた。

「どこに行けば国土の資料は手に入りますか?」

「図書館から泥棒でもするつもりですか、たいした度胸ですね。書店にいくらでも売っているでしょ」

「ちちち違いますっ!授業で使うんです!ちゃんと許可証もありますからっ!」

そう言うと彼女はガサゴソとカバンの中を弄ってしわくちゃの紙を見せた。

「図書館ではお静かにしてくださいっ!」

「ごめんなさい!静かにするから怒鳴らないでください!」

それで我に返った僕は小さく咳払いをして女子生徒に告げた。

「国土なのであれば105から10書架、下段をよく探したらどうでしょうか」

 

「あ、ありがとうございます!」

彼女はそう言うと一目散に書架の方へ走って行った。

 

「おまえは鬼か・・・」

「はい?」

声のした方を向くと強面のあの人が本を抱えて睨んでいた。

「お待たせしてすみません。返却ですか?」

「第一授業はどうした。サボリか」

「いいえ、どちらでしょう?」

僕が愛想良くそう返すとあの人は小さく「返却」と呟いた。

僕は手早く右手前の引き出しから印鑑を取り出し、貸し出しカードに今日付けの印を押した。

「それでは本は預かりますのでこれで・・・」

そう言って渡された本を奥の書架に戻そうと持ち上げた所でその本の上にばん!と手が置かれた。

「またサボったのか」

「サボってません。本を読ませてください」

「だめだ」

僕はバツが悪そうにあの人に向き直った。

「理由を言え」

「ですから、しばらくは出る授業が無いんです。」

そう言うとあの人は更に眉間にしわを寄せた。

「サボリか。」

「ふざけないでください。先生でもそのような言いがかりは許しません」

「では何故此処で番をしている。彼奴はどうした。」

「二週間出張なのでその間、書庫の管理を任されました。」

「高等部の学生のお前にか、まあこの図書館の内部にある書架を全て記憶しているのはお前くらいだろうからな」

「薬学は取れましたし、もう残った総合科の授業は殆どないですから。」

書庫の管理がしたかったなんて口が裂けても言えない

 

「お前は何の職に就きたいんだ」

「急になんですか。」

「もう半年もすれば最終試験だろうが」

そう言えばそうだった。

「そうですね・・・先生ですかね。」

人前は苦手なんですが。

「あの、いい加減本をお離しください。冊子が傷みます」

「ほう・・・意外だ。お前なら研究職にでも就きそうだが」

そう言うとあの人は本を抑えていた手を離した。

「これから王宮にでもいかれるのですか?」

「それ以外に何がある。」

「二つ掛け持ちは大変ですね。ならば、油売っていないで早く行かれた方がよろしいのではありませんか?先生?」

そう言って奥の本棚にようやく本を戻す。この本棚は返却用であり、一定数たまると勝手に元の場所に書籍を戻してくれるので便利だ。

 

「お前はやはり薬学を専攻するのか?」

「とりあえず総合学科で受けようと思ってます。」

そう言いながら椅子に座って本を開く。このやり取りが調書作成に思えて来た。

「そういえば眼鏡、替えたのか」

「変えたのは二年以上前ですが。」

「そうか」

そう言うと先生はくるりと踵を返して図書館を後にして行った。

 

それにしても先生は僕と変わらない年に思えるのに何故王宮の重役もこなすほどの技量があるのかと、とても不思議に思えてならなかった。

 

 

オリソニ小説〜永久の月光花No.15 2/2

「はー」

教会の外に外に出てみたら雨の降る前のような空模様で、俺は声を漏らした

 

「埃っぽい匂いはしないけど・・・・変な空模様」

「そうだな。とりあえずシャオンを探そうぜ。」

「ええ」

そう言って大通り沿いを進むうちに違和感に気がついた。

「ねぇ、空が変なんじゃなくって、向こうの森も、黒くない?」

「そうか?」

言われてみれば確かに空のある位置とは思えない所に雲がかかっていた。

「朝方なら分かるけど、この時刻にってのはちょっと考えられないと思うわよ?」

「うーん・・・」

しっくりこない。と呟いた俺に対しサファリは「色彩的におかしいのよ」と近くに落ちていた小石を掴んで変な色彩とやらの森の方角になげた。

すると石は地面に落ちる寸前で何かに当たり、跳ね返った。スーパーボールのように気持ち良くガツンっと言う音がして・・・ガツン?

「は、跳ね返った!?」

「やっぱり。 なんかあると思った。」

「やっぱりって何だよ」

「何かしら?まぁ今思えば好都合だよね。だって私達がバラバラになってるし、敵からみたら思いっきり」

「あぁ成る程。つまり、別の所にシャオンとステアもいるって事か?」

「それは知らないわよ。勘だし」

そう言うとサファリは後ろに下がった。

「どうしたんだ?」

「黒いのが動いてる・・・!」

「黒いのって、ゴキブリか?」

「そっちじゃない!壁!バカっほら逃げよ!」

俺が壁を確認する前に俺はサファリに引っ張られて教会に逃げ戻った。

 

 

「結界・・・かもな。難易度は割と高い・・・」

教会に戻った俺達は、寝泊まりしていた部屋で林檎を食べていたアッシュに息も絶え絶えのまま支離滅裂な話を聞かせた所「分かった。」といい、窓を開け放った。本当に分かったのかは俺の知る由もない。

「やっぱりやっぱり!一度みてみたかったのよね!こんななんだ」

サファリは嬉しそうに教会の窓から身を乗り出す。そうこうしてる間にも黒い壁、否結界はじわりじわりと俺達のいる場所に間合いを詰めてきていて正直危ない。

「闇魔法・・・お前ら此処に来る前に誰かと争ったか?」

「たしか二回くらい襲われたわね。」

「ああ、紅月は数に入れなければ一回。二人の魔法使いらしき奴らに襲われた」

「そうなの?シャーレクの話だと三人なんでしょ?」

「待て、聞かせろ」

「三人っつーか、もう一人、兄貴がいたみたいだったぜ?」

「面倒な奴を連れ込んだな・・・多分その兄が原因だ、すごく兄弟思いだった筈だ。」

そう言うとアッシュはついて来いと言って階下に降りて行った。

 

 

******

 

「なぁっ!どうする?おいシャオン!」

「ちょっと静かにして!僕にだってどうすればいいか・・・」

考えることを知らないステアは僕の周りをくるくると廻ってて、僕は焦って手元にあった本を捲った。

すると木の上から面白そうに僕らを眺めてる奴が一人いて

「ふぅ〜外の布陣は焦ってるな。こう言うのも面白いや。」

「君は趣味が悪いね」

「元からだぜ?」

「そうかい」

野次馬は無視しないと。どこかにきっと糸口がある筈・・・・

きっとどこかに

 

 

『よくできた。魔法には必ず弱点がある。どんなに見繕っても取り除けないものがな』

不自然な声とともに世界がフラッシュバックする。

顔が見えない、それとも思い出せないのか。手元にあるのは一冊の本

『体力を使う魔法は詠唱が続く。噛めばおしまいとまではいかないが進行を遅らせられるだろう』

『魔法式は魔導士になら分かるだろう?』

深い青が搗ち合った。

 

「なぁなぁどうするよ!!」

ステアの慌てた声で気がついた。ドームは気がつけば教会の方に迫っていて僕は高らかに声を上げた

「ステア!ドームに攻撃しても駄目だ!本体を、術者を攻撃して!」

「ど、どうしたんだ!?術者って言われてもよ届かないだろ?」

「何でもいいよ!口に桃でも石ころでもなげて詰めてやればいいさ!もしかしたらそれで何か分かるかもしれない!」

「わ、わかった!半分は分からなかったけど」そう言うとステアは一目散に一番高い木の上に桃を持って行った。

「分からなくてもやらなくちゃ・・・何であろうと。言われた通りなら式が分かるのかもしれない。」

覚えてなければ付け直せばいい。僕は知らない筈のページを捲った。

 

 

 

 

 

******

 

 

「おいどうすんだ?」

「黙ってついて来い。」

アッシュの言動に首を傾げつつも彼の後をずっとついて行くとやがて彼に出会った広い講堂を過ぎ、奥の奥まで行くと、キッチンがあった。今にも崩れそうな床に気を配りながらきしむ扉を開けるとそこは普通のシンクと床に散乱した食器があるだけのキッチンで、あとは行き止まりだった。アッシュは見当たらない。

「どこかで見失った?」

「んな訳ねぇよ、俺ちゃんと確認したんだ!」

スパークはサファリに向き直って声を荒げた

「さっさと来い・・・カンテラは台所に点いてる奴を使え、マッチは一緒に置いてある」

声のする所を見ると床下だろうか、そこの板を頭で押し上げてアッシュは俺達を睨んでいた。

俺達が板を手で押さえたのを確認したらしいアッシュはそのまましたへと潜って行った。

 案外中は広く、俺が立ってもまだ天井が高いくらいで、歩くのは苦にならなそうだ。ただ、カンテラで先をてらしてもまだ出口は見えそうになかった。

 

アッシュは俺達の数メートル先を転びもせずに淡々と進んでゆく、まるで先が見えてるかのように。

「さ、寒いな・・・」

「地下だしね。」

 

そんなを会話をしながら二十分くらいそろそろと歩いただろうか、突如視界が開けた。

突然のまぶしい光に俺達は目を瞬かせた。

「何分待たせれば気がすむんだ。早くしろ」

俺達の目が光に慣れた頃、そこはちょっと広い食料保管庫だということに気がついた。食料は皆腐ったみたいだが。

 

「こんな所に連れて来て、何をしようというの?」

「・・・・・結界を突き破る。」

そう言うとアッシュは何も無い天井を見上げた。

「は!?」

アッシュの突拍子もない発言に俺達は目を見開いた。そりゃあそうだ、何故そんな事を言えるのか理解不能だった。

「闇を破れるのは光だけ。昔友人だった奴が教えてくれた。」

「だった?」

「細かい説明は後だ。破れるかは分からんがお前らに協力してもらう」

そう言うと懐から1枚の古い紙切れを取り出しサファリに渡した。

 

 

******

 

「ティルト・・・・・」

汚くなっていた研究室の掃除を近々しようと思ってはいたが大分片付いた。こんな時でなければそう言ってごみの処理も出来るのだが、そうは行かない。

「ガナールを出せ!!」

崩れた廃材の中から鋭く尖った鉄パイプを掴み、私に突き立てた。

私はよけきれずに中途半端な体勢でそいつを睨んだ。

ティルト・・・どこかで聞いた。私のデータの中にはこの世界のありとあらゆるデータが入っている。絶対に見た。

「ダセ!」

「っく・・・!」

食い込んだ鉄パイプから機械同士がきしみ合う不協和音が頭の中に響く、改めて私はDr.とは違うと実感した。

 

「吸血鬼の事件ですっ!」

ガギンという鈍い音と共にティルトは横に倒れた。

「まだ耐久性には不安があったんですけど不安があって良かったです。へ・・・・・へへ・・」

後ろを向くとスパナを持ったまま腰を抜かしているDr.の姿があった。助けてもらえたのは非常に嬉しかった。しかし、見るからになさけなかった。

「は、早く彼のメモリカードを抜いてください・・・・!」

「ヤ・・・メ・・・」

ハッとして倒れたそいつの上にまたがりメモリカードを抜き出した。するととたんに生気のないロボットに戻った。

 

 

「すみませんでしたレイフ様。我々がいながらそのような大怪我をさせてしまうとは・・」

「い、いいんですよ。僕がいつもどんぱちしてるせいで君達が気づけなかっただけですし・・・・」

親衛隊はそう言うと敬礼をしてその場をそそくさと退散してしまった。

原因の大半は私がきたことであろうが。Dr.は私を見つけると満面の笑みを浮かべた。

「エノ!怪我は大丈夫?」

「私のことなら心配なさらずに、特に異常はありませんので。重症なのはDr.の方です。お加減は・・・」

「エノが来てくれたからぼく元気にな・・・!・・・う〜」

言っている側からDr.は痛みに顔をしかめた。

「・・・・ところで、吸血鬼の事件とは。」

「え、あぁ。最近読んでた本の奴だからあまり気にしなくていいよ。すっごく怖いからあまり思い出したくもないし・・・・」

そう言うとDr.は俯いてしまった。

しばらくの間、二人の間に重い空気が漂っていた。

「ところでエノ、メモリーカードの解析は終わった?」

「はい、とりあえず感情の部分を破壊しておきましたので再び暴れ出すようなことはありません」

そう言うとDr.はほっと胸を撫で下ろした。そこで口伝えで損傷箇所を報告する。

「ティルトの ・・・・彼のボディーの状態はかなり悪いです。大部分を損傷してます。 破壊箇所はギア、思考回路がほぼやられており、四肢を操作する基盤が吹っ飛びました。自立回路はDr.が破壊したので1から作り直す必要があります。コアは無事ですので、1からプログラミングする必要はありません。」

 

「あちゃ〜当たりどころが悪かったですね。・・・」

箇所を書き留めたティルトはかなりショックだったようだ。

「悪いどころではありません。更に研究室もしばらくは機能しません。貴方も私も回復次第自宅待機です。」

「最悪か〜」

「最悪です」

二人同時に深いため息をついた。

 

 

No.15  END   NEXT→No16

 

 

 

 

俺の進行状況の方が最悪だろうが阿呆

オリソニ小説〜永久の月光花No.15 1/2

 

第三十五章〜昼餉〜ヒルゲ

 

 

此処は涼しいし空気がきれいだ。僕は改めてそう思った。眠気覚ましを兼ねての朝の散歩は気持ちよくって、僕は更にこの廃都を散策した。

 あの家からはずいぶん離れてすっかり元の大通りに戻った。井戸を見つけたら急に喉が渇いた。そういえばここに来てから一口も水を飲んでなかったっけ。僕はその井戸に歩み寄ってかなり傷んだロープを引っ張り上げた。

「・・・この様子だと水はあまり汚れていないし大丈夫かな。」

 

手袋を外して水をすくってそのまま少しずつ飲み干す。正直水は、あまり美味しくはなかった。やっぱりやめておいた方がよかったかもしれない

そんな事を考えながら歩いていたらいつの間にか廃都の外にたどり着いた。僕達が入ってきた所とは反対の方のようだった。

「お腹空いたなぁ・・・・そういえばスパーク達どうしたかな」

すっかり忘れていた事を思い出してお腹が鳴った。

「ん!ひふは?」

「え、ありがとう。・・・・・あれ、ステアどうしたの?」

差し出された甘い香りのする食べ物を手に持って、顔を上げたらステアだった。彼はまだ片手に五、六個の食べ物を抱えていた。

「ひゃっひふぁんたふぉみふふぇてふぉいふぁふぇふぇふぃた」

「ちゃんと飲み込んでから喋ってよ。」

「・・・っとな、さっきあんたを見かけて追いかけてきたんだ」

これでいい?とまた口に食べ物を放り込む。

 

「君はきのう僕達の所をいきなり離れてなにしてたの?」

「ん、黄桃のいい匂いに吊られて一晩中歩き回ってたんだ。つい数分前にあんたと別れた所まで戻ったんだけど誰も居ないだろ?仕方ないから周辺歩いてたらアンタを見つけたって訳。」

今度はちゃんと食べ物を飲み込んでから話した。

「で、ここはどこだ?」

「あれ、知らないで歩いてたの?此処は廃都だよ。よく分からないけど。」

 

「なぁ、ところでアンタの持ってる本って何だ?」

ステアは僕の持っていた一冊の本に目を留めて言った。

「よく分かんないんだけど持って行きたくなってさぁ、暇つぶしになるし。」

「何の本なんだ?」

くるくるくるっとステアは食べ物を回して皮をむかずに一口で食べた。

「それが表紙だけ虫食いにあってて読めないんだよ」

「ふーん」

 

「暇つぶし・・・ねぇ」

 

「誰?」

木の上から声が聞こえた。そこを見ると尻尾が見えた

「人様に名を問うなら先に名乗るべきはお前じゃねえのかぁ?」

「まあ、俺は名乗る気はねえけどな。」ニイッと笑った奴は、猫だった。

 

 

 

 

 

 

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

「本日はこの森で魂癒着術の練習をしてもらうぞ。」

森の前で声を張って生徒に聞こえるように言う。初めての屋外授業という事で浮かれているようだ。

まさか初等部でこの授業をするとは思ってなかったが、今日が初授業なんです。頑張らなくては

「・・・絶対に認めてもらわなくては」

女だからって見くびらないでほしいんですよ。普通女性教師は回復術や薬調合の方で使われる事が多い。だからこの科で授業をする時には多いに反対された。

目の前にいる生徒達は未だざわついていて、落ち着かない。

 

「ところで先生。魂癒着術って何ですか?」

生徒の一人が質問した。

「ふふん、その質問を待ってましたよ。えぇーっとですね、魂癒着術とは・・・「すみません遅れましたっ!」

クラスの視線が一斉にその子に集まる。

「あら。」

息を弾ませて真新しそうな教科書を抱えてた丸眼鏡その子は見た事の無い子だった。

「理由はなんだい?」

「あ、えぇっとですね。め・・・・・眼鏡を自宅に忘れまして。」

眼鏡が無いと文字が読めないんです。そう言って彼には大きい気がする丸眼鏡を押し上げた。

頻(しき)りにごめんなさいを連呼する少年。

クラスの者だとしてはおどおどしている。

「まあ良いや、そこに座りなさいな。」

「はぃ・・・・・」

消え入りそうな声で返事をして質問をした女の子の近くに腰を下ろした。

 

「では改めて、魂癒着術についてです。教科書P36です。」

パラパラとめくるページの音と、本を読みはじめる子供達

「はいはい!私に注目!教科書にはしおりを挟んでいること!ほら丸眼鏡くん、読むのをやめてください」

「ほら、先生お話ししてるよ。」そう言ってほかの子が眼鏡を弄ると気がついたみたいでしおりを挟んだ。ごめんなさい付で

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

魂癒着術

その名の通り術者の魂、意思のかけらを他人に癒着させ、幻覚を見せる魔法である。ただ、普通の幻術とは違い、術者が解かない限り一生続く。

更に、普通の幻術はあり得ない幻覚を見せる事が多いですが、この魔法は術者が今体験している事を疑似体験させるようなものです。 具体的に言うならテレビの生中継のようなものです。 

 術者の見たもの、聞いたもの嗅いだもの、感覚が全てその者にも伝わります。更に、長期間使用していると、相手は術者自身を自分だと思うようになります。

逆に、相手のやっているものに全て干渉する事も出来ます。ですが、あまりにリアルな感覚のため、逆に干渉した相手自体が自身だと思い込んでしまう馬鹿が時々居ます。そこは気をつけてほしい。

その間かけられた者は何もする事が出来ず、感覚や意識諸共術者に飲み込まれているため結果的に餓死するというわけです。

助かったとしても、長期に渡って術にかかっていた者は術者を自分だと思っている事も多く、多くが命を落とします。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

 

 

「まぁ、あまり気を負わずに、自分がかかっているという自覚さえ持っていれば大丈夫だ。」

「という事はターゲットは僕ら皆でやり合うわけではないんですね?」

「勿論。術をかけるのはこの森に住む生き物達にだ。ただし、間違ってもこの森の植物にはかけるな!あと、その様子を観察し終えたらすぐに術を解きなさい。いいですか?」

「はい!」

「では解散っ!」

すると散り散りに生徒達は散って行った。あの眼鏡っ子も本を歩き読みしながら森の中に入っていった。心配である。すると不意に服の袖を引っ張られた

 

振り向いたが姿は見当たらず、目線の斜め下に生徒の顔があった。

「先生、彼奴授業初めてなんだ。」

「ん?」

「さっきの眼鏡。」

「ああ、あの子見かけない顔だったよね」

 その生徒の話によるとあの眼鏡っ子は春先に病で休学してたらしい。

だからみんなの中でもどこか浮いていたのかもしれない。

「とりあえず、私は見回りしないとね。」

私も生徒達のあとを追って、森の奥へと入っていった

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

登校用に春先に買ってもらったブーツ、制服は裾が長くて小柄な自分には凄く大きかった。それに加えてその日が屋外授業の日だなんて知らなかったわけで、底が厚く、履き慣れていない靴は本当に・・・

「・・・歩き辛い。」

そう言って僕は3度目のため息をついた。

 

新学期の夕方に発作で倒れた僕は、何の病かも聞かされないまま、半年以上、家から一歩も出る事は無かった。 母はただ、「体調が悪い。」とだけしか教えてくれず、ぼくはずっと、原因不明の強い劣等感に襲われてた。

でも二週間前に登校許可が下りたらしく、登校できる事になった。でもそれを知ったのは一昨日で、昨日は一日中今日のためのしたくにおわれていた。

今日、学校にいくのは不安でしょうがなかった。事実、片目乱視、もう片方が遠視の自分が眼鏡を忘れているのに校門の前まできて、気がついた。

取りに戻ってそのまま休みたかったのを我慢して登校したら教室には誰も居ない。特別教室はみんな別の学年が使っており、仕方なく職員室へ足を運んだ。そしたら屋外授業で、リ―ヤ先生という先生が担当しているらしい。

そして、案の定授業に遅刻し、クラスのみんなの前でいきなり失態をしてしまい、今に至る。

 

「読んでもよく分からないじゃないか。」

そう言って、どすんと木の根元に座り込んだ。

僕が得意なのは魔法薬学。この授業、分野でもある魔法陣は一番嫌いなもので、自分にはさっぱり分からない。

第一地面に図形を書き記す事自体がよく分からない。以前そう母に言ったら笑われた。

「あ。」

もしかしたら詠唱で呪文に変換できるかもしれない。

魔法陣の元は数式や言葉も多い。前に本で呪文を魔法陣に変えるというのをしていた人がいた。逆も出来るのではないか。そう思った。

「ヘル・フェーデ・ドゥーシャ・・・かなぁ」

魔法陣にはそう描いてあるような気がする。

「やめといた方がいいぞ。丸眼鏡君。見習いの君が魔法陣を書き起こすなどと言う高度な魔法を使ってはいけないですよ。」

上から覗き込んでいたのはリーヤ先生だった。僕は驚きのあまり勢いよく顔を上げ、後頭部を幹にぶつけた。

「はいぃった!?」

「魔法陣の描き方くらい私が一から教えてあげるから。ほらノートをだす!」

「にしても先生、いきなり声をかけるという行為はおやめになられた方がよろしいと思いますよ。」

「さっさと出す!」

この後まさか、大事件が起きるなどと僕と先生は思う筈も無かった。

まさか物語の世界じゃあ無いのですから。

 

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

 

「先に名乗るのはそっちからじゃねえのか?スプレー塗りたくったタワシみてえな頭しやがって」

そいつは赤毛で足元は裸足、サイドに垂らされた毛は丁寧に金のバングルで止めてあった。

 

「君こそいきなり声をかけるのはどうかと思うよ?」

「はんっ、笑わせるね、綺麗事ばっかり抜かしやがって」

そう言い脇で立ち尽くしてたステアの持っていた食べ物を一つ奪う

「おまえっ!何すんだよ」

「おぉっと。いきなり殴るなよ、食べもんの一つや二つ、いいだろ?」

そう言うとそいつは一口齧り、笑う。

「てめぇ・・・」

ステアの拳に力が入る

「そうかっかすんなよ、この辺はいつ来ても食べ物がうまいよなぁ・・・だろ?」

そう言って種を吐き出す。

 

「もう一度聞くよ、君は誰なんだい?紅月の手下なのかい?」

「手下ねぇ・・・俺様は違うと思うぜ」

「思う?それは一体どういうこと?」

「俺様は誰の下にもつかねぇ、紅月とやらの下にもだ。ま、楽しいことなら話は別だぜ?」

そう言い笑う奴は満面の笑みを浮かべていた。

「別・・ね。君の名前は?」

「俺様はアスラ、これから此処で楽しいショーが幕を開けるってよ」

「そんな情報何処から」

「ある組織に協力した御礼に教えてくれたんだよ。そこの奴がな。『これから復讐をしてやる』ってさ」

 

「復讐・・・・・・!・・・スパーク!」

「何だ!?スパークがどうしたって?」

「ああん?」

大声を出した僕を怪訝そうにアスラは睨み、ステアは警戒を解いた。

あぁ、どうしよう。まだ廃都の中にはスパーク達が居る。アスラが協力したという組織のターゲットが僕達だったとしたら紛れもなく紅月だ。

 

 

「フォールミラージュ!!(滅びの蜃気楼)」

 

 

突如静寂に轟いた言葉は暗雲と強風を伴いながら教会上空から徐々に徐々に周囲を巻き込み、最終的には大きなドーム型の何かが廃都全体を覆った。

僕達はギリギリドームの外側に居た。

「・・・・どう言うこと・・!?」

「へぇ〜、闇魔法だな。そういや彼奴得意だっていってたもんなぁ。楽しみだ」

僕達が状況を処理しきれていないうちにアスラは木の上に上がって行った。

 

「お、おい。どういうことだ??」

「ステア、このドームの中にはスパークが、スパーク達が居るんだ。」

「へ!?」

動揺して上手く言葉が紡げなかった。まさかこんな所で奇襲に遭うとは思いもしなかったから。

「油断してたよ」

しっかりしないと

「んだとおい、冗談じゃないよな!?くそっ、この壁弾かれる」

ステアはドームに体当たりする。

 

「残念だがこの魔法は外部からの攻撃は一切受け付けない。おまけに防音効果も果たしていて、外部からの情報は一切遮断されている。お前達は目の前で仲間が死ぬのを眺めているんだな」

「・・・テノール??」

僕達が天使島に言った時にズタボロにしてやった奴に似ている。

「ハズレ。俺はロアール、テノールの兄だ。」

そう言うと煙草を取り出しふかす。

「弟と後輩の借りを返しにきた。楽しいショーの開幕だ。リベレイション!」

すると少しずつドームが縮んで行く。そしてそこにあった建物は消えていた。

「どうだ、最高だろ?このドームが縮み外側に出ると最後は皆、塵と化す。楽しいショーだろ?」

 

このままお前達の前で選ばれし者諸共塵にしてやる

 

そう言うと浮遊して、教会がある辺り。丁度ドームの中心に立ち、術を唱え始めた。

「ハハハ・・」

全く、笑えない冗談だよ。まずは状況を整理しなくちゃ・・・

ドームは少しずつ小さくなってゆく、ドームが縮まる時、内側のモノは塵と化す。外側からドームを壊すことは叶わず防音、外からの情報は一切貰えない。

 

 

 

これって・・・・最悪じゃないかな?

 

持論。

僕が物語の中心を作るとして、僕を中心とした物語が出来るのだろうか

僕がやっている正義は君から見たら悪でさ。君は間違ってるって言うんだ。

僕から見た君は悪でさ、僕はそれを正そうと思うのさ。

「正義が勝つ」なんて言う馬鹿げた話があるけど、でたらめだ。

彼等は自らの持論を持って自分に背くものを排除するんだ。

君だってそうでしょ?受け入れたくはないこの世界を、君は別の世界へと作り替えようとする。

僕らには意思というものがある。

あった所でどうにかなる所ではないんだけど。

 

一方を傷つけない限り、もう一方は生きられない。それが善と悪の定めなのだと思う。

 

君は、最初にあった時とは違う目をしてた。怯えたような、そんな目。此処で君は僕とのけじめをつけたんだと思った。

僕も変わったのかな。なんて思ったりして。

人を殺し、支持者を集めた。足元は常に血の海。抜け出しても、体中から流れる誰かの血は、枯れる事はない。

これが僕の定めならば、僕は僕の持論に抗うような事は二度としない。目の前が朱に染まってゆく。全てが赤の世界。

僕はこの流れ落ちる血の数だけ、人々を殺めてきたんだ。

いつものように、誰かの血で紋章を描いてさ、また僕の手を赤く染め上げるんだ。まだ息のある奴らも、そのうちくたばるよ。空は満月だ。人里から離れてて、お星様がキレイ。

 

僕は乱れた毛並みを整えて、血の絨毯を敷き詰めながら歩いていった。

 

 

まだ僕が、ひとりぼっちのお話。

 

 

 

 

××××××××××××××××××××××××××××××××

 

「最近、この辺りで一家惨殺事件が多発してるらしいですよ。」

あまりにも悲惨すぎて何がなんだか分からないような事になっているらしいのだ。

「赤い絨毯・・・か。」

数ヶ月前、王国で大騒ぎを起こして消えた奴を思い出す。あの姿は、自分の目にも確と焼き付いていた。

「・・・・どうしたの?」

「何でもない」

此奴は首を傾げて、またとことこ歩いていく。此奴はまだ知らない。顔見知りがあんな事をしたなんて微塵も思ってはいないのだ。

たまに飛んだりはねたりして、小石に躓いて転ぶ。起き上がる際に、ぴょこんと特徴のあるマリンブルーの毛が覗く時もある。

相変わらずブーツは歩きにくいようで、こういう草道に入るとよく転ぶ。

「これやっぱり歩きにくい・・です。」

 慣れない敬語とまだ履き慣れないブーツはやっぱりキツいようだ。

「ねえねえ」

「どうした?」

「あそこに誰かいるよ?」

指差した先には、影があった。普段なら気にも留めない住人のような影だったが、今回は違った。

「らぬめっと・・・?」

「!!・・・まてっ!」

気にも留めず歩みを止めないあの子。脳裏にはまた、あの赤い瞳が映し出されていた。

 

 

まだ俺が、二人ぼっちのはなし。

Library social withdrawal  後半ノ巻

 

 

 

 

 

 

三の書

 

 

 

「なんなのですか、貴方は。」

図書館からの帰り道、その人物は目の前に現れました。

「あれぇ~忘れちゃったの?僕ですよ僕。」

異様なまでの殺気と血に染まったかのような赤髪、足元から伸びる影が異様なまでに長かった。彼が一歩歩くたびに私は一歩引き下がる。聞きたくは無かった。否、聞いてはいけなかった。その声を、その容姿を私を先生と呼ぶその声を・・・・

「僕ですよ・・・?忘れる分けないよね。だって貴方の記憶に痛い程刻みついているはずだよね、その名はぁ・・・」

 

「ラヌメットさんですか・・・・。」

はいと返ってこない事を願っていた。

「そうだ。」

 嗚呼なんて最悪な日でしょう。先ほど注意を受けたばかりですのに、本人に会ってしまうだなんて、こんな事でしたらウォイスさんについていくのでしたよ全く。

 

「正確に言えば僕は、もうラヌメットじゃない。そんな名は王を殺した際に捨てました。」

ケケッと不気味に笑う。私でも危ないと危惧しました。

「手始めにね、人を殺したんだよ。ここを出てから周辺の小さな村各地で二・・三人さ。そして、犯人がこの中にいるように彼奴らに思わせてさ、殺し合いをさせたのさ。一つの村はみんな死んだ。二つ目の村は大人が皆死んだ。じき子供も死にましょう。三つ目の村は幻影に溺れて死んだ。馬鹿だよ全く、皆さぁww揃って同じ事をするんだもん。これじゃあ実験してもしてないような物じゃんか」

先生もそう思うでしょ?そう言い不気味に微笑む彼は私の知ってる彼ではなかった。

「そうは思いません。彼等は貴方の実験に協力したいと言ったわけではないのであれば、私はそうだとは思いません。」

その瞬間彼の目が変わりました。失望の色に、同胞を失ったかのように。私は続けます。

「それはただの人殺しです。そのような汚らしい事は嫌いです。」

 

「何故です・・・。僕にあんなにも言ってた癖にぃ・・・・・」

彼の瞳がギラッと光る。ゆるさない。そう口が動いたのを見ると、いきなり飛びかかってきました。

「ルフィアインビナード!!!」

すると私の方に振り上げられた右手に炎ををまとった剣が現れました。私はとっさに転んで避けました。上の方で炎の熱気と嫌いな刃物が見えました。

「挨拶もなしに攻撃とは・・・私が教えた方法じゃないですね。とても無礼ですよ。」そう言って彼の足を払う。

 

バランスを失い彼はそのまま近くの八百屋さんに突っ込む。辺りには人集りができていて、動き辛くなってきました。

「皆さん!この方が王様を殺められた張本人です!どうか下がってください!危険です!!」

どなたか王宮に届け出てください!私がこいつを食い止めておきますから!私は叫びました。彼が起き上がり、反撃を開始する前にこの事を伝えなくてはと・・・・

「ふざけんなよこの眼鏡がぁ!」

起き上がって再び剣を片手にこちらに向かってきます。

「剣の重心が、ぶれていますね。もしや剣を使うのは初めてでしょうか。王を殺したように、簡単に私を殺めてしまえばよろしいのに。サザンウォール!」

 

私は彼に向けて水の魔法をかける。彼は水に飲み込まれ、剣は使用不可能になり、水に飲み込まれて消えていった。

 

「~!!!!」

 

**************

 

 

 

「!?場所は!」

王宮に駆け込み俺に面会を求めた少女は兵士に止められていた。俺が離せと言った所。眼鏡をかけたお兄さんが殺人犯と戦っている。と言った。

「大通り!図書館近くの八百屋さんの側!」

「くそっ!」

俺は王子の子守りを放棄して、王宮の外に駆け出した。

 

彼奴が保てばいいが・・・・

 

 

**************

 

 

先ほどまで私の方が優勢でしたが、全くもって反対になってしまいました。

これを形勢逆転というのですよね・・・。現在地は大通り脇、花壇の土の上、時期的に向日葵が咲いている畑の上に頭から突っ込み、顔を上げた所です。目の前を呑気に芋虫がのそのそと歩いております。いいですね。

・・・呑気な事を言っている場合ではありませんね。

「全く今日は散々です。」

 

図書館で忠告を受けたのにもかかわらず帰りに出会うとは、こんな街中で戦ってしまって、周辺には先ほどとはうってかわって人っ子一人見当たりません。

 

「 戦いは嫌いなのですがね。」

病院でつけていただいた包帯は真っ赤に染まってしまいました。

それに、あちこちに傷があります。嗚呼また病院にお世話になる羽目になります。それに、また眼鏡を破損されるだなんて。今回はレンズにヒビが入る程度で良かったですが、あの方がいっぱい映ってどれがどれだか分かりませんよ。

 

「私の眼鏡代くらいは弁償していただきたい物ですよ。」

「貴方は何処までも保身的な方ですねぇw」

「元からですよ。」

ふらりと立ち上がった私の首元に剣が押し付けられる。

「いいよいいよその顔。僕はその顔が好きだ。相手を精神をおいつめておいつめて、先がないと悟ったその顔がぁ」

先ほどの様子とは違って、何かがキレたかのように不気味に笑う彼は、私の知っている方ではありませんでした。別人。

 

「先生も往生際が悪いよ。さっさと死ねばいいのにさぁ。痛い思いしなくて済むんだよ?死ねばいいじゃんか、さっさと。」

そう言いギリギリと剣を私の左肩に押し付ける。体の肉が切れる痛みとそこから流れ落ちる赤黒いモノの香りが混ざって、嗅覚から、聴覚から侵入してくる。

「あぁ・・・・・ああぁ・・・・・」

「このままだと僕は先生の両手足を切り落としちゃうよ?」

ぼたぼた・・・と嫌な音を立てて血が落ちる。石畳の掃除が大変そうですよ全く。

 

 

 

「お・・・・・・落としたければ落とせばいいですよ。そ・・・そんな事であまっちょろい子どもになど怯えてては仕方がないのですよ。どうぞ落としてください。」

そう言い自ら剣に食い込ませる。再び肉が切れる嫌な音がしましたが気にはしません。すると、彼の顔から笑顔が消える。

 

 

「死ねぇぇぇ!!」

 

 

振り上げられた剣は私の頭を捉え、まっすぐに振り下ろされました。

「だからそれが甘いというのですよ!リヴェルス!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああ!」

そのままの形で彼は固まる。否、動けないのです。しびれて。

その隙に私は彼から離れました。数分間は大丈夫でしょう・・・かね。

 

「少々遣り過ぎましたよ全く。さすがにこれだけの血液を失ってはまともに走れませんね。」

流石に息が荒いですよ。また過呼吸にでもなったら大変ですね。

 私がいた所には赤黒い跡が残っており、点々と、私がいる所まで追っていた。初めて試した魔法だったのですが、案外効きましたね・・・驚きですよ。

服はクリーニングで落ちるような血の量ではありませんね仕方がありませんね、捨てましょうか。結構気に入っていたのですが。

 

 

 

 

「ノヴァ!」

 

 

 

 

すっかり人気のなくなった図書館街の王宮の方から走ってくる人影が見えました。

「・・・・・ウォイスさん。」

初めて彼に名前で呼ばれた気がしました。『馬鹿ですね、走るくらいならテレポートでも使えば良かったでしょうに。』・・・言いたかったのですが、声は出ませんでした。

「やっときましたか・・・ありがとうございます。どうせならもっと早く来てくださいよ。」

「無茶言うな。「ここから王宮までの距離はどれくらいだと思ってるんだ。走ってもかなり時間かかるんだぞ。テレポートを使おうにも位置がよく分からなくてな。図書館の周りの八百屋なんぞ、いくつでもある。」

ウォイスさんはそう言いながら息を整え、私に肩を貸す。

全て廻ってここが最後だったそうです。なんて運の悪い。今日は本当に運が悪い日ですよ。

「彼奴は・・・」

あそこです・・・・。指を指した先にはいまだ固まっている彼がいました。

 

「ラヌメット!」

 

「んあぁあああああああああ!」

ガキン、と石畳にヒビが入る音がすると同時にウォイスは叫んだ。

「溶けましたかね・・・魔法」

 

すると彼は、ゆっくり振り向きました。その目は殺気を帯びていて、ギラギラと光っていました。

「生に執着するのか、僕は・・・我・・・知りたい・・・」

 

 

一瞬ノイズが走るかのような機会音が混じり、微かに声色が変わった気がした。本格的にヤバいかもしれない・・・彼奴の精神に毒が適応してきたという事か。つまりだ、先ほどよりも強くなるという事だ。

「ヤバいな・・・」

「何がですか。」

元同僚をこのような姿にしたのだ。余談は許せない。ただ一つ分かる事は、彼と彼奴が争った時はほぼ互角だったこと。ただ、後半の方に行くに連れて彼の体力が切れ始めた。もともと体力がなかった。時が経つと同時に毒が適合していき肉体の魔力を操れるようになった。だから彼奴の魔力は強まった。そして今のような形になった。と、俺は状況を推測した。

 

「お前、何したか分かっているのか・・・」

え、何の事?そう言い邪気のないいつも通りの笑顔で笑う。それがかえって恐ろしかった。

「今日はこれくらいにしようよ。今日は貴方の怯える顔が見れた事だし。痛み分けだ。」

そう言い笑う。彼奴も見れば彼よりはましであるが、かなりの怪我を負っていた。

 

「貴様!・・・「貴方は私の知っているラヌメットさんじゃありませんね。名前はなんと言われるのですか?聞かせてください。」

はじめから分かっていましたよ。彼はそう言って私から離れようとしてバランスを崩ししゃがみ込む。反動からか、血が数滴足元に落ちた。俺が腕を持とうとしたら傷口が開くのでいいですと振り払われた。

 

「紅月・・・じゃあね。」

そう言って彼はどこかに消えた。追いかける事も可能だったが、ノヴァがこの状態では無理だと判断したため、俺は一旦彼を病院へ運ぶ事にした。本人はいいです。と何度も断ったが。そんな状態で病院まで一人で行けるのかと聞いたら素直に従った。こいつにしては珍しいなと思った。

 

 

 

 

 

四の書

 

 

 

 

「全くもって、今日は最悪な日ですよ。」

「動くな、うまく包帯が巻けないだろうが」

結局ウォイスさんによって病院に担ぎ込まれた私は、肩を十針も縫う事になり、しばらくの間は入院する事になりました。どちらにしろ、このような状態ではまともに暮らす事はできないので良いのですがね。

丁度同行していただいたウォイスさんに包帯の巻き直していただいている所です。

「痛いです。もう少しゆるく撒いてください・・・・貧血ですよ?」

「だから悪かったと言っているだろうが、少しは口を噤んでろ。」

「すみませんね。ところで、王子さまは放っておいて大丈夫なのですか。」

「大丈夫だ。今頃使用人が寝かしつけている頃だろう。」

そう言い包帯を絞る

「だからいたいです。力加減はできませんか。」

「できない。そろそろ俺は帰る。」

彼はそう言い、残った包帯を持って出口の方へ歩いていきます。そんなキッパリ言わなくていいと思います。

「そうですか。ところで貴方の着ていた服は・・・」

「血が落ちなかったから捨てる事にした。あと・・・・・・・すまなかったな。」

戸口に手をかけて呟きました。

「何がですか。」

「ラヌメットの件、俺がもっと早く気づいて止めるべきだった。そうすればお前もこんな事にならなくて済んだろう。」

「過ぎた事はもう良いのです。こんな事になったのは、私が相手した事も原因の一つなのですから。」

「・・・・・悪かったな。」

 

そう言うと彼は病室を出て行きました。

私は割れたレンズ越しに最後の彼の姿を見たのでした。

「眼鏡はまた購入し直しですね。・・・・ありがとうございました。」

私は彼のいなくなった病室で一言呟きました。本人に向かって言えれば一番良かったのですがね。

 

 

それ以降、私は彼とは会っていません。

職場復帰した日に自宅に再び花が届きました。送り主は見なくても分かりました。前回と同じ包装で、同じく細かい文字で書かれた文字と、同じ種類の花が贈られてきたからです。

一つ違った事と言えば、中に『よくなってね。』と一言、読めなくもない文字で書かれた手紙が入っていた事くらいです。名前は読めませんでしたがね。

久しぶりに図書館へ向かいました。その途中で彼とすれ違いました。傍らにはあの子も一緒です。二人とも深くフードをかぶっていて・・・

嗚呼、分かりましたよウォイスさん。

そうですか、出掛けるのですね。遠い遠い所へ。

いってらっしゃい。

そう呟いた一言は、空の彼方へと消えました。

守るのなら、最後まで守り抜いてくださいね。

 

これが私の望みです。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その数年後、総合科にいた一人の教師が行方知れずになるという事件が起こった。

その教師の名は    『ノヴァ・リヴェル』

 

 

 

 

 

 

 

これが私の記憶。

 

 

 

 

END.

一人は言う、「戦いなど虚しいだけ』 一人は言う、「僕を一人にしないで』 一人は言う、「人それぞれで良いのだ』 一人は言う、「片方を守る者、もう片方を失う」 四人は言う、「この物語を作るのは自分たち自身なのだ。』と、 だから僕は守る、彼女に頼まれたあの子と、この世界の運命を・・・・・・・・